経営・戦略

2024.09.27 09:15

都知事選第5位、「令和のダ・ヴィンチ」が予測 『AIに託されるもの』『人に残るもの』

起業家、AIエンジニア、作家 安野貴博氏(都知事選期間中に。右は妻の里奈氏)

人類の運命を決定的に「切り替える」技術は?


──安野さんはご著書『サーキット・スイッチャー』の終盤で主人公の坂本に「意思決定をした上で私たちは(自動運転技術を使って)社会のスイッチを切り替えた(だから、行く末を見届ける)」といった意味のことを言わせています。自動運転技術以外に人類の運命のスイッチを切り替える技術があるとすれば何でしょう。
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安野:LLM(大規模言語モデル、生成AIの一種)、ChatGPTのような大きなAIがどういう答えを出すのかは、やはり人間社会の各所に深く影響してくると思います。

たとえばわれわれは先の選挙期間中に、政策をディスカッションする場としてWeb上に掲示板のようなものを作りました。ただ完全に放置しておくと「荒れる」ので、ヘイトスピーチなど、「不適切な」発言や画像がアップロードされた際は、自動的にフィルターするようにした。その裏にはLLMが使われていました。しかし、改めて考えてみると、一体どこまでの発言をヘイトスピーチと見なすのかの線引きは極めて難しい。

しかも、たとえば一般的に汚いとされる言葉でしか自分の感情を伝えられない人たちが仮にいたとすれば、その人たちの声は完全に封殺されることになる。彼らは声を失ってしまう。
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ですから単純に、「荒れるからフィルター」という機能一つとっても、様々な価値判断を内包しているんです。そして、そういう価値判断に影響してくるのは、基盤モデルをどうトレーニングするか、 どういうトレーニングデータを入れるか、といったことです。

だから、これからわれわれが膨大なデータセットに基づいてトレーニングする基盤モデルは、世の中のありとあらゆるところのデリケートな判断を担う可能性が出てきます。自動運転みたいな技術同様、社会の「形」を決める可能性があると思いますね。

「何を人間に残して、何をAIに任せるか」


──:作家の上田岳弘さんがオードリー・タン元大臣と対談したときに、「何を人間に残して、何をAIに任せますか」とタンさんに聞かれていました。 安野さんならどう答えますか。

安野:人間が、自分がやっていることに対して価値を見出す行為は、 人間に残り続けると思います。

たとえば将棋。今は藤井聡太よりもパソコンの方が何倍も強い。しかし人間は、藤井聡太が将棋を打つたたずまいとか熟考する仕草とか彼がAIから学習する態度などを見て、その打ち筋に感動する。将棋は「次の一手をどうするか」の問いに答え続けるだけの行為で、機械が極めて得意とする領域なのですが、 われわれ人間は「同じ人類がやっている」というそのファクト自体に対して、価値を見い出し続けると思います。

だから、機械がいくら進歩しようと、藤井聡太よりパソコンが10倍強いのがたとえ100倍になろうとも彼はおそらくやり続けるし、われわれは観戦し続けると思うんですよね。

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取材・文=石井節子

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