このような包括的な個人情報の収集と利用には、プライバシーとセキュリティの問題が付きまとうが、だからこそアップルはこの機能にiPhoneを中心とするエコシステム全体の未来を見出しているのだろう。
地域ごとのコミュニケーション、マナーに対応するチューニング
最もユーザーとしては、利便性について、その可能性を強く感じるとしても、まだ完全にはアップルのことを信用できないとする意見もあるはずだ。Apple Intelligenceに組み込まれている言語モデルは、アップル自身が開発するものである。また、事前学習も(一般的な質問に関してはApple Intelligenceが担当する領域ではないとはいえ)アップル自身が行うことになる。
Apple Intelligenceによる回答は、実際に私たちが端末を通じてやりとりするリアルな情報をもとにしているため、あまりに大きな学習データベースから誤った推論を引き出してしまう現象は少ないと見られる。それでも、取り扱うデータの内容を誤って識別し、ユーザーを偏った方向に導く可能性はゼロとは言えない。
そうした意味では、アプリから取り込む情報に関しても、どのようにしてそれを学習データベースに反映して推論に反映していくのかといった部分に関して、最終的にどのようにチューニングしていくのか、アップルの倫理観と開発力が問われることになる。
加えて、現時点において直接的な競合相手がいないことから、独占的とは言えないものの、極めて大きな競争力を持つアップルが、独自のAIサービスを展開することに関して、規制当局がどのように見ていくのか、独禁法上のリスクになる可能性もある。
ただし、筆者が6月に取材したときの感触では、アップルはかなりプライバシーや倫理、そして地域ごとの文化的な違いについて強く意識した上でApple Intelligenceの開発を進めている印象を持った。
例えばAIを用いてコミニケーションステッカーを作るGenmojiという機能がApple Intelligenceには備わっている。この機能が著作権に関して、誤った結果を出さないよう事前学習されたラストをもとにしか動作しないが、地域ごとのカルチャーの違いを反映して、提供地域によって事前学習画像を調整する可能性について言及されていた。
これはビジネスマナーに関する国ごとの文化の違いも同じだ。
単純に意味の通る文章を作るだけではなく、筆者の感情を反映させる文章を作る場合、ビジネスのマナーを守った上で相手への配慮を行う場合など、国ごとにコミニケーションのスタイルは異なる。そうした部分での細かなチューニングを、アップルは入念に行っている。