欧州

2024.09.04 10:30

ウクライナ経由の欧州向けロシア産ガス輸送、戦況の変化で供給危機も

ロシアに依存し続ける中欧諸国

ロシアとウクライナの開戦以降2年以上が経過しているにもかかわらず、ロシア産天然ガスにほぼ完全に依存している状況を改善するために積極的に動いているのは、先述の中欧3カ国のうちスロバキアだけだ。同国政府はポーランド経由の輸入や、アゼルバイジャン産の天然ガスで代用するなどしている。

それとは対照的に、オーストリアのロシアへの天然ガス輸入依存度は昨年98%に達した。同国の電力会社は、ドイツ経由の代替案が割高であることから、ロシア産天然ガスの輸入を続けている。また、米ニュースサイト「ポリティコ」は、オーストリアの総合エネルギー企業OMVがロシア国営天然ガス企業ガスプロムと結んだガス供給の長期契約を破棄するのは法的に困難で、費用もかかると伝えた。

一方、ハンガリーはロシア産天然ガスの輸入を縮小する計画はないと声高に宣言。それどころか、同国はロシアとの関係を深めようとしている。

3カ国の立ち位置は大きく異なるかもしれないが、武力衝突によって天然ガスの供給が停止した場合、それはさほど重要ではないだろう。こうした状況がもたらす影響への懸念は高まりつつある。

逼迫する欧州のエネルギー供給

これら中欧3カ国が輸入する年間150億立方メートルの天然ガスは、欧州全体の年間輸入量である約3000億立方メートルの約5%に相当する。欧州はガス貯蔵能力の90%以上を満たしてはいるものの、ガス供給がたとえ少量でも滞れば、冬が近づくにつれ影響が大きくなる恐れがある。

仏エネルギー大手トタルエナジーズのパトリック・プヤンヌ最高経営責任者(CEO)は英ロイター通信に対し、ガスの供給停止が発生した場合、貯蔵タンクが満たされていたとしても、欧州全域にガスが行き渡るかどうかはわからないと述べた。同CEOは、米テキサス州のLNG輸出プラント「ゴールデンパス」の建設工事をはじめとする新規LNG計画の遅れを指摘し、欧州のガス市場は今後も変動にさらされるだろうと説明。エネルギー供給は依然として余裕がない段階にあるとして、2027年までは状況が大きく変わることはないとの見方を示した。こうした状況を踏まえると、欧州の天然ガス契約の指標であるオランダTTFが、メガワット時当たり40ユーロ(約6450円)前後で推移しているのも当然だと言えよう。

forbes.com 原文

翻訳・編集=安藤清香

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