オロプーシェ熱、今なぜ警戒されているのか
オロプーシェ熱は中南米でかなり以前から散発的に流行しており、集団感染も決して珍しくない。だが、今回の流行に関しては、懸念に値する注目すべき要因がいくつかあると専門家は指摘する。まず、流行の規模が例年よりも大きく、長期にわたって続いている点だ。今年これまでに検査機関で確認された感染例は8000件を超えている。英ケンブリッジ大学のスティーブン・グレアム教授(ウイルス学)によると、地理的にも過去の流行より広域で感染が確認されており、北はキューバから南はブラジル・サンパウロ州まで及んでいる。
CDCによれば、従来の流行地域に加え、オロプーシェウイルスが見つかりやすいアマゾン流域以外の「新しい地域」でも集団感染が起きている。ブラジルは大打撃を受けており、ボリビア、ペルー、コロンビア、キューバなどでも国内感染が報告されている。このほか米国(11人)、スペイン(12人)、イタリア(5人)、ドイツ(2人)など数カ国で海外渡航歴のある感染者が報告されているが、国内で二次感染が発生した兆候は今のところない。
また、今回の流行がこれまでと異なっている点として特に懸念されているのが、ブラジルで妊娠していない健康な女性2人がオロプーシェウイルスに感染し、死亡したとの報告だ。オロプーシェ熱で死者が出たのはこれが初めてである。妊娠中の母子感染の可能性にも警戒感が高まっており、死産や流産、先天異常の原因となっているかどうかを専門家が調査している。
オロプーシェウイルスは新種ではないとはいえ、まだ分かっていないことが多く、英医学誌ランセットは今月8日付の論説で「謎の脅威」と表現した。今回の流行の発端が何だったかも不明だが、研究者らはオロプーシェウイルスがRNAウイルスであり「急速な変異」が起こりやすい点に着目している。ウイルスが変異した結果、感染力や病原性が高まる可能性があるのだ。専門家は、ブラジルで変異株が発生し、今回の流行の発生源となったとみている。
ケンブリッジ大のグレアム教授の見解では、オロプーシェ熱の特徴から考えて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のようなパンデミック(世界的大流行)につながる可能性は低い。「幸いなことに、オロプーシェウイルスに感染しても、ほとんどの人は数週間で完全回復する。したがって、このウイルスがSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)のような世界規模でのパンデミックを引き起こすことはないだろう」と述べている。
ランセットによれば、オロプーシェウイルスが発見されて以来、記録されたオロプーシェ熱の症例数は50万件に上る。
(forbes.com 原文)