ヘルスケア

2024.07.23 11:30

致死率高いニパウイルス、インドでまたも集団感染 10代少年が死亡

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ニパウイルス感染症の集団感染が散発しているインドで7月21日、同ウイルスに感染した10代の少年が死亡したことを受け、同国の保健当局は感染拡大の封じ込めを急いでいる。ニパウイルスの致死率は最高で75%に達し、新たなパンデミック(世界的大流行)を引き起こす可能性があると警戒されている。

ニパウイルスは珍しく、感染すると死に至ることのあるウイルスだ。1999年にマレーシアとシンガポールで、ブタと養豚業者の間で集団感染が発生した際に初めて確認された。

ニパは動物とヒトがともに感染する人獣共通感染症の原因となるウイルスで、動物からヒトへ感染する。ニパウイルスに感染した動物やその体液に直接触れたり、感染したコウモリの尿や唾液の付いた果物など、汚染された食品を食べたりすることでうつる。

ヒトからヒトへの感染も過去の集団感染で報告されており、中でも多いのは感染者の家族や看護者らにうつるケースだ。

世界保健機関(WHO)によると、ヒトの場合、感染後数日〜2週間で症状が現れるのが一般的だが、発症までに45日かかった例も報告されている。潜伏期間中にヒトからヒトへうつる可能性もあるとする研究もある。WHOはブタの場合、潜伏期には「感染力が高い」と指摘している。

ニパの症状は通常、発熱や頭痛のほか、せきなど呼吸器疾患の兆候から始まる。急速に悪化して脳炎や発作を起こし、1日か2日で昏睡(こんすい)状態に陥ることもある。

ニパウイルスに感染した場合の致死率は40〜75%と推定されているが、発生状況や現地の医療体制によって異なる。脳炎から回復した患者では、発作や人格変化といった長期的な神経症状も報告されているという。

インド南部ケララ州の保健当局は、21日にニパで死亡した14歳の少年の接触者の追跡・特定を急いでいる。州当局によると、感染のリスクがある350人超を追跡しており、うち「高リスク 」とみられるのは101人。6人にニパの症状がみられるという。接触者の約70人は死亡した少年の看護などを行った医療従事者だ。

同州は世界で最もニパウイルス感染リスクの高い地域の1つとされており、今回の集団感染は2018年以降、同州で確認されたものとしては5回目となる。専門家は、同州では人間の活動によってコウモリの生息地が破壊されていることから、ウイルスのスピルオーバー(自然宿主の動物種から他の種への伝染)が起こるリスクが特に高い可能性があると警告している。
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翻訳=溝口慈子

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