エコシステム

2024.08.22 15:15

岐路に立つ日本のスタートアップエコシステム―、グローバル化か衰退か

まず第一に、同記事では2019年以降に国内のVCファンドが調達した資金総額を基準に、エコシステムの維持に必要な実現リターンの金額を試算しています。VCによる調達額が約6000億円として、少なくともその3倍のリターンが求められるとすると、2029年までにVCだけで1.8兆円の実現リターンが必要となる計算です(日本のスタートアップ市場全体なら3.6兆円)。しかし、ここで注意したいのが、調達されたファンドの資金がすべて国内市場に投資されるわけではないという点です。日本で調達され、日本への投資にフォーカスしているファンドでも、他国の市場に一部投資していることがあります。これらのファンドの海外投資の割合を特定するのは難しいですが、留意すべき点であることは確かです。
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2つ目に指摘したいのが、日本には 「隠れユニコーン」が存在するという点です。一般的に、日本では多くのスタートアップが比較的早期に上場します。その中には上場後に企業価値が10億ドル超に到達するものもありますが、すでに上場しているため、「スタートアップ」と呼ばれることはあまりありません。しかし、以前にも書きましたが、創業から12年以内にこれだけの企業価値を創造したのであれば、本来ならばユニコーンとしてカウントされるべきでしょう。Coralが調査したところ、2011年から2021年の間に、このような「隠れユニコーン」は40社以上もありました。そう考えると、私たちが本当に追うべき指標は「ユニコーンかどうか」ではなく、「企業価値の創造」ではないでしょうか。実際、最近では未上場のままでもより多くの資金調達が可能になってきたことから、上場を遅らせて会社を成長させるスタートアップが増えていますが、その結果、ユニコーンも増加傾向にあります。VCとしても、スタートアップの成長を待つことで、最終的により大きなリターンが期待できるようになってきています。

最後に、この資金調達の大部分が政府系または事業会社関連の資金である点についても留意したほうが良いでしょう。これらはスタートアップへの投資に対し、VCとは異なる動機やリターン・プロファイルを持っているからです。

以上を踏まえた上でも、「起業家やベンチャーキャピタリストはグローバルを視野に、もっと大きな目標を掲げるべき」という馬田さんの呼びかけは、非常に的を射ています。グローバル市場と比べて国内市場が相対的に縮小し続けている今、私たちはもはや国内にとどまることに満足してはいけないのです。トヨタやソニーも、国内市場に集中していたら今の姿はなかったでしょう。このレベルの偉大な企業を日本からもっと生み出すためには、グローバル化は選択肢の1つではなく、必須なのです。
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ただし、ソフトウェアの分野に関しては、日本の企業がグローバルに競争するのは現実的には厳しいでしょう。日本はすでに大幅に遅れをとっている上に、ソフトウェア・ビジネスはマーケティングやセールスへの依存度が高い傾向にあるため、言葉や文化の壁が大きく立ちはだかるからです。しかし、以前にも書いたように、日本がグローバルリーダーとして活躍し続けている分野はまだたくさんあり、グローバルで成功する新たなスタートアップを創出するポテンシャルがあります。Coral Capitalは、この「ジャパン・アドバンテージ」を活用し、日本から次のトヨタやソニーを生み出そうとする野心的な起業家にお会いできることを楽しみにしています。

P.S. もっと知りたい方は、同僚のKenの記事「Japan 4.0」をぜひ読んでみてください。

連載:VCのインサイト
過去記事はこちら>>

文=James Riney

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