民主党と共和党との関係にシンクロ
そしてまた、このスポーツが盛り上がったもう1つの要素があるプロモーターの存在だ。このパワースラップは総合格闘技界のカリスマ経営者、ダナ・ホワイトがプロモーターになっているということが大きい。彼は、世界一の格闘技興行会社「UFC(Ultimate Fighting Championship:本部ラスベガス)」の現CEOで、長年この組織の運営に関与しており、世界的な総合格闘技組織へと成長させるのに大きな役割を果たしてきた。
2023年にはWWE(World Wrestling Entertainment、ワールド・レスリング・エンターテインメント)を合併するなど、強烈なリーダーシップを発揮していて、選手以上にメディア露出が大きい人物だ。
マイクの前で、下品かつ荒っぽい言葉も含めて、直言でマシンガンのように話すパフォーマンスも有名で、彼を批判したニューヨーク・タイムズの記者を敵視し、ことあるごとに彼をこきおろす姿にまたファンが高揚する。
今回のパワースラップも、ダナ・ホワイト自身が2年前に創設した所以もあり、ニューヨーク・タイムズが2面を使って、反キャンペーンを繰り広げている。
例えば、医師にインタビューをして、顔面への直接的な打撃は脳震盪や長期的な健康被害を引き起こす可能性があると指摘、またこの競技が暴力を助長すると批判している。
実は、パワースラップの盛り上がりは、徹底的に民主党を押し、社説まで出して大統領選に勝てないジョー・バイデンを引きずり下ろし、勝てるかもしれないカマラ・ハリスを前面に押し出したニューヨーク・タイムズと、熱狂的な共和党員のダナ・ホワイトの戦いともシンクロしている。
先日、ドナルド・トランプが共和党大会で大統領候補の指名を受けたが、大会参加者に「トランプを紹介する」もっとも大事なゲストスピーカーとしてのマイクを握ったのがこのダナ・ホワイトなのだ。
もともと格闘技が好きで、20世紀の頃からプロレスでのプレゼンターをやったりしていたトランプが、ダナ・ホワイトと強い絆で結ばれていることはよく知られたことで、このパワースラップの賛否両論の炎上は、共和党対民主党と見るとわかりやすくなる。
この競技が社会の暴力化を進めると言って中止の圧力をかける先頭に立っているビル・パスクラル下院議員も、民主党だ。
正直に告白すれば、筆者もこのバワースラップをついつい見てしまう。しかし後味がすっきりしないのもまた事実だ。そして素人目に見ても、選手たちの健康が心配だ。
スポーツに怪我はつきものとはいえ、ここまでくると、かつてのローマ帝国時代に、戦争捕虜や奴隷市場で買い集められた者が剣闘士となってコロッセオ円形闘技場で戦わされた風景が重なってしまう。考え過ぎだろうか……?
連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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