国内

2024.08.20 15:00

日本版スタートアップ・エコシステム。起業家たちの10年間の軌跡

少数ではあるが、ここ1~2年でグローバル志向の起業家は増加傾向にあるように思える。例えば、23年に米国展開を本格化したキャディは、代表の加藤勇志郎が自ら現地で陣頭指揮に当たり、海外売り上げ比率50%以上を目指している。前述のジョーシス・松本恭攝はDAY1グローバルを掲げ、創業当初から多国籍展開を前提とした国際的なチームを構築。また、技術力で世界に勝負をかけられるディープテックの領域は、政府の支援が手厚く、VCの投資意欲も旺盛で、核融合領域の京都フュージョニアリングなど、すでに海外で存在感を示す企業も出ている。「技術やプロダクトの国際化だけでなく、ビジネスをやるという観点では、国際競争力のある人材が欠かせない。コンサルからスタートアップに参入する人材は増えたが、金融機関や商社などで海外ビジネス経験を積んだ人材が入ってくる流れをつくることが重要だ」と伊佐山は指摘する。

足元のスタートアップを取り巻く環境は、米国の金融引き締めの継続姿勢を受けて、世界的に投資家の心理が冷え込み、依然として資金調達は厳しくなっている。米国では23年のVCによるスタートアップ投資額が前年比3割減の1706億ドルと2年連続で減少した(ピッチブックおよび全米ベンチャーキャピタル協会調べ)。一方、日本は5カ年計画などのプラス材料もあり、相対的に影響は軽微だ。

「マーケットがいつ回復してくるかは読めないが、現在は欧米のスタートアップがバーンレート(資金燃焼率)を抑えるために積極的にレイオフをしたり、広告宣伝費を抑えたりしている。見方を変えれば、グローバルで競合他社が弱っている状態。これはおそらく、日本のスタートアップにとっては10年、30年という長い目で見て1度あるかないかの大きなチャンスだ」とグローバル・ブレインの百合本安彦は指摘する。「海外の優秀な人材を採用しやすくなっているし、資金供給力も国内のVCに勢いがある。お金の価値が変わっていて、今は50億円以上を投下すればそれなりの勝負ができる。人口が減少し市場が縮小していくなかで、日本のスタートアップの戦い方は変わってくる。市場を外に広げて企業価値を高めていくことが大切だ」。

また、JIC-VGIの鑓水は、今後10年のキーワードとして「総スタートアップ化」を挙げる。「世の中全体で流動性が上がり、変化のスピードが早まっている。不確実性が高く、何が起きてもおかしくない時代に突入した今、変化に素早く順応して新たなビジネスを創造したり、既存の仕組みをひっくり返したりするスタートアップ的な経営手法は、これまで以上に重要性が高まるだろう。スタートアップがより活躍できる世界になっていくともいえるし、大企業でも個人レベルでも、そのようなマインドをもって仕事をしていくことが求められていくのではないか」。

総スタートアップ化は、既存の仕組みや概念にとらわれず、より良き未来のために挑戦していく姿勢とも言い換えられるだろう。それは、起業家精神そのものである。起業家は「怪しい存在」から「魅力的な存在」という過渡期を経て、誰しもがその精神を抱える民主化の時代へと突入していくのだ。

文=眞鍋 武

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年8月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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