足元のスタートアップを取り巻く環境は、米国の金融引き締めの継続姿勢を受けて、世界的に投資家の心理が冷え込み、依然として資金調達は厳しくなっている。米国では23年のVCによるスタートアップ投資額が前年比3割減の1706億ドルと2年連続で減少した(ピッチブックおよび全米ベンチャーキャピタル協会調べ)。一方、日本は5カ年計画などのプラス材料もあり、相対的に影響は軽微だ。
「マーケットがいつ回復してくるかは読めないが、現在は欧米のスタートアップがバーンレート(資金燃焼率)を抑えるために積極的にレイオフをしたり、広告宣伝費を抑えたりしている。見方を変えれば、グローバルで競合他社が弱っている状態。これはおそらく、日本のスタートアップにとっては10年、30年という長い目で見て1度あるかないかの大きなチャンスだ」とグローバル・ブレインの百合本安彦は指摘する。「海外の優秀な人材を採用しやすくなっているし、資金供給力も国内のVCに勢いがある。お金の価値が変わっていて、今は50億円以上を投下すればそれなりの勝負ができる。人口が減少し市場が縮小していくなかで、日本のスタートアップの戦い方は変わってくる。市場を外に広げて企業価値を高めていくことが大切だ」。
また、JIC-VGIの鑓水は、今後10年のキーワードとして「総スタートアップ化」を挙げる。「世の中全体で流動性が上がり、変化のスピードが早まっている。不確実性が高く、何が起きてもおかしくない時代に突入した今、変化に素早く順応して新たなビジネスを創造したり、既存の仕組みをひっくり返したりするスタートアップ的な経営手法は、これまで以上に重要性が高まるだろう。スタートアップがより活躍できる世界になっていくともいえるし、大企業でも個人レベルでも、そのようなマインドをもって仕事をしていくことが求められていくのではないか」。
総スタートアップ化は、既存の仕組みや概念にとらわれず、より良き未来のために挑戦していく姿勢とも言い換えられるだろう。それは、起業家精神そのものである。起業家は「怪しい存在」から「魅力的な存在」という過渡期を経て、誰しもがその精神を抱える民主化の時代へと突入していくのだ。