国内

2024.08.20 15:00

日本版スタートアップ・エコシステム。起業家たちの10年間の軌跡

「モノ」の観点では、スタートアップ振興のためのルールづくりや、産官学連携などが全方位で進んでいる。例えば、オープンイノベーションという単語は10年前に存在しなかったが、今や大企業では当たり前の選択肢になりつつある。今年3月に上場したソラコムなど、大企業の傘下で成長しながら上場を目指す「スイングバイIPO」の成功例も出始めた。

環境整備という点で象徴的なのが、23年に始動した「スタートアップ育成5か年計画」だ。27年度にスタートアップ投資額を10兆円に拡大させるなどの目標を掲げたこの国家戦略に伴い、税制適格ストックオプション(SO)の要件緩和や、創業時の個人保証を不要にする新制度など、規制緩和やルールづくりが急ピッチで進められている。直近で注目すべきは、非上場株を自由に売り買いできるセカンダリー(流通)市場の環境整備。インキュベイトファンド代表パートナーの村田祐介は、「未上場株式に流動性をもたせることで、早期に上場して換金したいという起業家や投資家のインセンティブをいい意味で緩和させられる。より大きなIPOを目指そうという流れにつなげやすく、大きな意味がある」と説明する。

5カ年計画は、スタートアップの成長を応援する方向に社会全体が動き始めるきっかけとなった。GCPの仮屋薗が言うように、起業家は「未来を担う魅力的な存在」に変わったのだ。

最大の課題はグローバル化

それでは、この先10年間の課題とは何か。WiL共同創業者兼CEOの伊佐山元は、「日本の将来を担う新しい産業という期待感に、本当の意味で応えられるのかを証明していく期間になる」と話す。

前述のメルカリをはじめ、ビジョナルやカバーなど、年に1社程度のペースで時価総額1000億円級の上場に成功する企業を輩出していることは大きな成果だ。マネーフォワードやSansan、freeeなどのSaaS、ispaceやQPS研究所、アストロスケールといった宇宙関連企業のように、赤字を掘りながら大きな成長曲線を描くモデルでの上場が増えていることも、スタートアップに対する社会の理解と期待が高まっていることの裏返しといえる。一方で、上場後に成長が伸び悩んでいる企業も少なくない。時価総額1兆円を超え、1社で産業になるような規模の会社はまだないのが現状だ。

課題の本質はどこにあるのか。WiLの伊佐山が語る。「日本のスタートアップ業界の最大の課題は国際化してないこと。ほとんどの企業は、国内マーケットだけでビジネスをしている。これだけではいずれパイの取り合いになり、長期目線では国力の強化や大きなインパクトにつながりにくい。国際競争力のあるスタートアップを育てるために何が足りてないのかを真剣に議論し、手を打っていかなければならない」。
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文=眞鍋 武

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年8月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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