法案に対しては、ウクライナの前線で戦うロシア軍人の周辺からネット上で怒りの声が噴出している。実際にスマートフォンを使っている軍人たちも憤激しているようだ。前線でのスマートフォンの使用が危険を伴うのはわかりきっているが、ロシア軍にとってスマートフォンは不可欠なものになっているからだろう。全面的な禁止は逆効果になりそうだが、議会はウクライナの戦場の実情を伝える動画の共有を防ぐために、法案の成立を進めていく考えかもしれない。
危険だが広がるスマホ使用
民生の携帯電話は基本的に安全なデバイスではなく、敵軍のしかるべき電子戦(EW)機材によって探知、追跡され、攻撃などに利用されるおそれがある。たとえば2023年1月、ウクライナ軍は占領下の東部ドネツク州にあるロシア軍の拠点の位置をスマートフォンの通信トラフィックを通じて突き止め、そこにミサイルを撃ち込んだ。この攻撃でロシア軍の人員100人近くが死亡したと伝えられる。
こうした事例はほかにも多く報告されている。スウェーデンのサイバーセキュリティー企業ENEAは今年、ウクライナの戦場における携帯電話の追跡に関する詳細なレポートを公表した。それによると、携帯電話の追跡は3つに分類できる。無線送信機としての携帯電話の物理的な追跡、電話システムを通じたネットワーク経由の追跡、そしてマルウェアなどの手段を用いたソフトウェアによる追跡だ。
レポートをまとめたENEAのカハル・マクデイド最高技術責任者(CTO)は「驚きだったのは、軍による携帯電話や一般の商用通信の利用が増えていることです」と述べ、「(軍での)モバイル機器の使用は一般的になりつつあるようですが、もし使用するのであれば控えめに、かつ安全策を講じたうえで使うようにすべきです」と注意を促している。
ENEAは、戦闘地域で携帯電話を使う場合、SIMカードは域外から持ち込むのではなく、現地で、信頼できるソースから入手するよう助言する。通話する場合は分隊の陣地から400m以上離れ、通話中は同伴の戦友に背後を監視してもらうことが推奨される。通話内容はすべて敵に盗聴されていると想定しておく必要もある。
ウクライナ軍もロシア軍もスマートフォンの通信トラフィックの検知・解析や、使用者に対する攻撃に相当な努力を払っている。しかし、そもそもなぜ両軍とも軍人にスマートフォンの所有を認めているのだろうか。