「断ったら消される」という脅しの言葉もあり、NASAのなかに秘密のスタジオにつくり、旧知の監督を起用して、フェイク映像の撮影を始めるケリーだったが……。
ケリーは旧知の映画監督を起用してフェイク映像に着手するが……
物語は、この月面着陸の捏造映像がつくられていく過程に、互いに好意が目覚め始めるケリーと発射責任者コールの微妙な関係を絡めながら、最後には意外な結末へと導いていく。
「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」は、笑いながら、ハラハラしながら、かつ月面着陸プロジェクトの全容にリアルタイムで参加しているような感覚にもさせられる、実に巧みにつくられた作品なのだ。
膨大なNASAの未公開映像が
これまでNASAの宇宙開発プロジェクトを題材にした映画は数多くあった。旧ソ連との激しい競争のなかから生まれた有人宇宙飛行計画であるマーキュリー計画に選ばれた7人の宇宙飛行士を描いた「ライトスタッフ」(フィリップ・カウフマン監督、1983年)。同じくマーキュリー計画を支えたNASAのコンピュータ部門の3人の女性エンジニアを描いた「ドリーム」(セオドア・メルフィ監督、2016年)。
宇宙空間で危機にさらされた月面探査機アポロ13号の乗組員の救出劇を描いた「アポロ13」(ロン・ハワード監督、1995年)。最近では、アポロ11号で人類初の月面着陸を果たしたニール・アームストロング船長の半生を描いた「ファースト・マン」(デイミアン・チャゼル監督、2019年)。いずれの作品も、実際の出来事に沿って物語をつくり出していた。
しかし映画「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」の特徴は、これらの作品とは異なり、まったく事実にとらわれることなく自由に物語を創作していることだ。それだけに登場する人物たちの人間模様もかなり色濃く刻まれている。その結果、月面着陸プロジェクトに「恋愛模様」まで持ち込むという離れ技まで繰り出している。
こうした架空のストーリー展開であるにもかかわらず、作品に迫真性をもたらしているのは、前述のようにNASAの強力なバックアップと、このプロジェクトに関わった人間たちからも直接アドバイスを受けているという点かもしれない。