だが、かつて1万2000人ほどが暮らし、工業で栄えたチャシウヤールのこの小さな地区を占領するために、ロシア軍は数千人以上の犠牲者を出した。報告によれば、チャシウヤール攻略戦の開始以来、ロシア軍がウクライナの戦線全体で被った人的損失はおよそ9万9000人にのぼる。もちろん、そのすべてをチャシウヤール市内やその周辺で出したわけではないが、この正面の損失がかなりの部分を占めるのは確かだ。
オーストラリア陸軍退役少将のミック・ライアンは「ロシアは地上で少しは前進したが、それには莫大な損害を伴った」と指摘している。そのうえで、あまりに少ない戦果のためにあまりに多くの損失を出したロシアは「この戦争でウクライナに決定的な打撃を与えるには、もう最後だったかもしれないチャンスを逸したようにみえる」との見方を示す。
この先起こることはおそらく、これまで何カ月も続いてきたことと同じだろう。ロシア軍は人員と装備に多大な損害を出しながら、じりじりと前進する。ウクライナ軍は後退を強いられるが、その損害はロシア側に比べれば格段に少ない。そうした状況だ。ロシア軍はひとつの都市、あるいはひとつの地区を占領するごとに、自軍の将兵を何万人と地に埋めることになるだろう。
チャシウヤールのウクライナ軍守備隊は戦闘をやめたわけではない。東部方面を管轄するホルティツャ作戦戦略集団軍のナザル・ボロシン報道官は、守備隊が市を南北に流れるシベルシキードネツ・ドンバス運河の西側へ数ブロック後退したのは、ロシア軍の爆撃や砲撃によって運河地区の建物が破壊し尽くされたからだと説明している。
運河の西側は東側よりも防御しやすい。ロシア軍の部隊はウクライナ側の陣地を攻撃するにはまず運河を越える必要があり、それは不可能ではないが困難な機動になるからだ。