藤原:今、実際に使ってもらった結果を父に聞く評価のプロセスを踏んでいる段階です。しかしながら、そもそも失語症を持っているため、なかなか父の言葉からは評価を聞くことができないと気が付きました。そこは今すごく葛藤している面でもあります。
家族の方は「チット」自体を楽しんでくれています。今まであまり発話がなかった父から返事が返ってくるので、また次の会話が生まれ、家族自体もポジティブになれています。
コンテストの裏側に込められた思いと葛藤
藤田:今年3月も賞を取られていましたし、いろんなところで賞を取られていますよね。藤原:賞を頂くことは飾り物や評価にすぎないと思っています。そこだけを見るよりも、私としてはもっと自分の作っているプロダクトを見てほしい気持ちがあります。コンテストに出て賞をいただくことが発信につながり、失語症や麻痺障害で悩んでいて、日々の生活に困っている方々に届けばいいなと思っています。
実際に色々な場所で見てもらえることによって、自分の家族が失語症であることや、発達障害でなかなかコミュニケーションが難しいと声をかけてもらえています。デバイスを開発してくれたら使いたいという声もたくさんいただいて、応援の声に助けられています。
山田:コンテストの本質はそこにあると思っていますが、もっとシンプルに「コンテストで勝ったぜ!」と思うタイミングはなかったんでしょうか?
藤原:初めて受賞させていただいた時は、ありえないほど嬉しくて、取ったぞという気持ちで家族にも言っていました。だけど賞を取る本質はそこじゃないなと思って……。本当はその賞を与えることによって、審査員の方々が「もうちょっと頑張ろうね」「ここを良くしたら次のステップに行けるよ」というアドバイスや視点をくれている気がしたので、その時が最後です。
山田:失語症患者の家族という当事者としての研究になっていることに対して、コンテストでドラマ性があるから賞に選ばれているという目で見られることはないですか?
藤原:最初コンテストに出る時は、そもそも父が失語症であることは話していませんでした。その際、たくさんの方に評価していただいたので、大丈夫だと思って父が失語症ですと周りに言ってみたんです。そうすると、お父さんのストーリーがあったから取れたんじゃないのかと言われました。