ビジネス

2024.07.12 09:15

神戸市役所が進める 広報PR業務の「インハウス化」がもたらすもの

デザイナーと一般職員との打ち合わせ

デザイン事務所や広告代理店との関係に変化

一方で、特殊な技術で撮影しなければならない動画や、数年間使っていくロゴやキャッチコピーの制作といった大規模な業務は、これまでと同様にデザイン事務所や広告代理店に発注している。
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複数の事業者のプレゼンのなかから優れたものを選定するプロポーザル方式をとることになるが、神戸市で働く広報PR活動のプロたちが審査委員として入っていて、事業者からの提案に目を光らせている。

映像制作のような業務では、納品する動画形式の変更や、6秒や15秒といった短縮版が必要となって業務量が増加するため、契約内容の変更をすることがよくある。

すると、いくら増額するのかは受注側の「言い値」になりがちで、法外な金額を要求してくる事例もある。ところが、経験ある映像クリエイターから見れば、必要となる業務量がイメージできるため、契約変更時の見積額が妥当であるか点検できるので、そういった交渉も有利に進められるようになった。
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実は、少額な場合でも神戸市は独自の発注方法を採用している。地方自治法の規定で、都道府県と政令指定都市だと100万円を超える発注は、受注したい事業者の提案や能力で選定するプロポーザル方式か、価格で事業者を決める入札で、事業者を選ばなければならない。逆に100万円以下だと、指名した3社の見積合わせという簡易な方法がとれる。
地下街の大型ポスターボードのPR広告

地下街の大型ポスターボードのPR広告

ところがここに大きな落とし穴がある。デザインなど仕様を一律に定めにくい業務で見積合わせをすれば、技術レベルの低いデザイナーを使う事業者が安い金額を提示でき、いわゆる「安かろう悪かろう」の選択になる。もちろん、100万円以下でもプロポーザル方式はとれるが、事業者の手間を考えると現実的でない。

そこで神戸市では、年度のはじめに、ポスターや動画など本来は別々に発注する業務をひとまとめにして、公募のプロポーザル方式で事業者を選定。業務が確定すると見積額を提出してもらい、両者で合意すれば作業を進める手法をとっている。

この方法だと品質は担保されるが、見積額が妥当であるかが肝になる。普通の職員では見当がつかないが、経験ある専門人材たちが見れば一目瞭然だ。事業者もそういった「プロ」の存在を知っているので、おかしな見積もりを出してくることはない。
デザイナーの中島歩実が制作したイベントサイトトップ画面

デザイナーの中島歩実が制作したイベントサイトトップ画面


さらなる副産物もある。年度当初に「子育て」「SDGs」といった分野ごとに5社ほどの事業者を選定する。すると、1年間は同じデザイナーが担当するので、デザインの一貫性が保たれる。もし見積合わせでそのたびに事業者が変われば、同じ施策なのにポスターなどのデザインのトーンが変わってしまうおそれがあるのだ。

実は、事業者からも「この方法だとその都度準備しなくてもよいので、無駄な手間が掛からない」と好評だ。

神戸市で進めている専門人材の登用には、わかりにくいと言われがちな自治体の広報PRを変化させていくヒントが潜んでいるように思えた。

連載:地方発イノベーションの秘訣
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文=多名部重則

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