ところが民間企業の一部では「インハウスデザイナー」として、フリーランスやデザイン事務所で活躍していた専門家たちを直接雇用しているケースも多い。さらにはデザイン担当の専門部署を置いて、社内横断的にクリエイティブ制作を任せている事例もある。こうすることで、作業の迅速化やノウハウの蓄積といった面で多大な効果があると言われている。
そんななか神戸市役所では、デザイナーだけでなく、動画クリエイターやコピーライターなどまで、計8名を採用して、広報PR業務のインハウス化を推進している。
今回、そのように至った背景と、実際にどのような効果が生まれているのかを深掘りしてみたい。
広報分野での専門人材活用でコストも削減
神戸市役所の広報PRを統括する広報戦略部には、現在約50名の職員が在籍している。そのうち8名が、週1日から3日勤務のパートタイム公務員で、神戸市で働くまでは、デザインや映像、ライターといった専門分野で仕事をしてきた。いまも市役所で勤務していない日は、フリーランスや大学教員として別の仕事もしている。他の自治体でも、アドバイザー的な役割では、外部からの専門人材の活用例はある。しかし神戸市のように、動画制作やポスターデザイン、キャッチコピーの制作といった現場作業まで担うケースはとてもめずらしい。
神戸市が広報分野での専門人材の活用を始めたのは、2020年9月に遡る。この時点で写真や動画の撮影、SNS投稿を制作する副業人材40名を登用した。コロナ禍の最中でもあったので、市役所に出勤するのでなく、オンラインで働くという仕組みだった。
このときの神戸市の狙いはコスト削減だ。年間で600万円ほどの予算を投入しているが、仮に大手の代理店やデザイン事務所に同じ業務を発注すると約2000万円かかると神戸市では試算している。
その後、2022年4月には広報戦略部のなかに「広報クリエイティブユニット」と呼ばれる専門部署を置いて、その40名とは別に、普通の職員と机を並べて仕事をする8人の専門家を採用した。
これらの取り組みなかで大きく変わったのは映像の制作だ。それまでは外注するしか選択肢はなかったが、企画から編集までできる映像クリエイター、文字やイラストに動きを加えるモーショングラフィックの技術者、動画配信サービスの元取締役の3名の在籍で、駅にある大型ディスプレイやYouTube用のPR動画のほとんどを自作できるようになった。
昨年3月、読売テレビで急きょ放送することになった「神戸登山プロジェクト」のCM映像も、わずか1週間で完成させたほどだ。