新入社員として過ごしたその年は、組織の中でものづくりをすることの難しさを学んだ。「辞めて自分ひとりで自由に作品をつくった方がいいんじゃないか」「会社に入らない方がよかったのかな」と最初の1年は葛藤することもあったという。
『打ち明けられない私の恋人』(C)フジテレビ
『打ち明けられない私の恋人』を監督した36歳の森岡は、俳優・映画監督として駆け出しだった23歳当時の自分自身を「焦りがあった」と振り返る。
「周りの友達がほとんど就職して、“俺このままでいいんだっけ” “日中何もやってないじゃん“みたいな不安があって。だから、皆が仕事をしている間に1本でも多く映画を観ようと思って、昼から映画館に通って1日3本とか観ていましたね」
自身にとってはそんな悶々とした時期だったため、本作でも“夢を追いかけよう”とか“自分らしく生きよう”といった、ポジティブなメッセージを安易には打ち出せなかった。悩んだ末に生まれたのが、23歳の会社員・岡島茉里と45歳の売れない役者・服部圭一との年の差カップルの物語だった。
「着想時点では"年の差"ではありませんでした。大学時代は同じ大学生どうしで付き合っていたカップルが、卒業すると片方はちゃんとした会社に就職して、片方は不安定な役者という道を選んで、だんだん環境の変化によって心がズレていくという状況を目の当たりにしたことがあります。それが頭の片隅にあって。それから、ドラマとして劇をふくらませる過程で、年の離れた彼氏と付き合っていることを周囲に打ち明けられない女の子の物語にしようと思いつきました」
23歳のとき、何してた?
『I am...』の他の作品は、鈴木のようにリアリティを追求しミックスルーツを持つ日本人を描いた『KOKORO』(堀田英仁)のほか、新入社員の自己紹介の苦悩を表現した『新垣蒼汰』(渋江修平)、“出る杭は打たれる”を体現する新人を柏木ひなたが演じた『マスタッシュガール』(根本宗子)がある。それぞれまったく違う23歳の姿が描かれているが、3人の監督は「23歳」というテーマをどのように捉えたのだろうか。書面で聞いた。
『マスタッシュガール』(C)フジテレビ