——23歳は、人生においてどんな時期でしたか。
堀田：宮沢賢治さんの『告別』という詩があります。
“おまへの素質と力をもってゐるものは
町と村との一万人のなかになら
おそらく五人はあるだらう
それらのひとのどの人もまたどのひとも
五年のあひだにそれを大抵無くすのだ
生活のためにけづられたり
自分でそれをなくすのだ”
『KOKORO』をつくるとき、自分が23歳の頃、この詩に影響を受けていたことを思い出しました。やりたいことと実際の自分の能力。夢とそれに伴う自信。そのギャップが一番大きい時期だった気がします。だから瑣末なことで一喜一憂して落ち込んだり、他人と自分を比べて羨んだり。今思えば、人生は長距離走ですから、まずは小さい歩幅で一歩進んでみることが大事なんだと思います。
『KOKORO』（C）フジテレビ
渋江：「自分は特別な人間なのかもしれない」とか「ただ者じゃないぞ」とか、ハイキックだけ気をつけたらピーター・アーツにも勝てるんじゃないか？くらいの自信を、ちょうど潰された時期でした。特別でも何者でもなかったことに気づき、自分を見つめ直しました。
根本：アルバイトをしながら演劇をやっていた頃で、とにかく生き急いでいたので「ああもう23だ、どうしよう早く何かを成し遂げなくては！！ わたしはこんなに演劇を愛しているのに！！」という焦りがあったように思います。今、34歳になってみて「いろいろ早くやりすぎたな…」と思うことも多くて、作品が早くに世に出る方が幸せなのか、もう少しゆっくりの方が幸せなのかは永遠の課題です。
20代のような達成感ってなかなか30代に入ってから味わえていなくて。ない物ねだりなんですけどね。ずっと上昇志向の塊のような人間だったら別だと思うんですが、少なくとも自分はそういうタイプではないんだなってここまで生きてきて思っています。これは決してマイナスな意味ではなくて、23歳の時より客観的に自分を見られるようになっているので、わたしの場合23歳って周りも自分も見えないくらい無我夢中だったなって思います。
——作品をつくるにあたって、「23歳」というテーマにどのように向き合いましたか。
堀田：自分が大事にしているのはリアリティです。なので、この作品の当事者である23歳前後の方達と触れ合う中で、その空気感や心情を捉えようとしました。23歳特有の個人的で等身大な感情と、撮影した時期である2023年の社会。その接点をどう結びつけるかを、かなり意識した気がします。
