「同じ道を歩んだ人こそ最高の教師」
ダボス会議開催2日目の午前9時30分。ダボス会議のメイン会場から程近い高校のホールには平日にもかかわらず大勢の人たちが集まっていた。来場者には、ダウンコートを羽織った学生や地域の住民と思われる人たちの姿が目立つ。彼らが集まった理由。それは一般の人々に無料公開されるセッション「オープン・フォーラム」に参加するためだ。この日のタイトルは「テクノロジーで深呼吸しよう」(Take a Deep Breath with Technology)。5人のパネリストとともに気候変動や大気汚染への革新的なソリューションについて考えるというものだった。
登壇者のひとりが、ウガンダを拠点にエネルギー事業を手がけるマンドゥリス・エナジー共同設立者兼マネジング・ディレクターでありトップ・イノベーターのピーター・ベンハー・ニーコだった。マンドュリス・エナジーは、生物多様性を支援しながら、廃棄物から生成したエネルギーを手ごろな価格で提供するための技術開発とシステム導入を手がける企業だ。AI(人工知能)とブロックチェーンを用いた独自のデジタル・プラットフォームで配電や販売を管理する。
気候変動対策について聞かれたニーコは「問題だけに焦点を合わせると難題のように思えることがある。だが解決策はある。そのことを私たちが理解している限りイノベーションは存在する。(経済性、社会性、人々の暮らしの質の向上を)ウィン・ウィン・ウィンにすることも可能だ」と話し、イノベーションの力を信じることの重要性を説いた。
オープン・フォーラムの後、ニーコに話を聞いた。この1年でマンデュリス・エナジーはウガンダとイギリスの2カ国だけだった事業拠点を3大陸・12カ国に拡大し、3年以内に現在の約10万世帯から100万世帯超にサービスを提供する見通しだという。
「農村の農業コミュニティに手ごろな価格で信頼できる再生可能エネルギーやグリーン水素、持続可能燃料、バイオ炭をベースとした有機バイオ肥料などへのアクセスを提供し、年間100万トン以上の二酸化炭素の除去を実現する。アップリンクのエコシステムがなければ、ここまで迅速かつ有意義な動きはできなかっただろう」
具体的に、アップリンクの何が彼らの事業をスケールアップさせたのか。ニーコは世界中のリーダーにアクセスできる環境やアップリンクが制作した事業紹介ビデオの存在、アップリンクのコミュニティで出会ったパートナーたちの協力などを挙げたうえで、トップ・イノベーター同士が対話することの価値を強調する。
「私たちは互いに学び合う。なぜなら、同じ道を歩んだことのある人こそ最高の教師だからだ。私たちは仲間から、そして先人たちから学ぶことができる」
志を共にするイノベーターとの出会いに価値があるという声は、ほかのトップ・イノベーターからも聞かれた。ダボス会議3日目に開催されたセッション「小規模生産者とともに世界を養う」(Feeding the World with Small-Scale Producers)のスピーカーを務めたABALOBI共同設立者兼マネジング・ディレクターのセルジュ・ラマカースもそのひとりだ。
南アフリカに拠点を構えるABALOBIは、漁獲データとトレーサビリティ技術を用いて小規模漁業の社会的、経済的、生態学的な持続可能性を追求するスタートアップだ。ラマカースは水産管理科学の分野で博士号を取得した社会起業家で、15年に同社を共同創業した。