エコシステム

2024.06.19 15:00

「時間をムダにしている場合ではない」ダボス会議で見た「起業家革命」の進捗

どんなに優れたアイデアがあっても、たったひとりで世界を変えることはできない。「ダボス会議」の取材で見えた、アーリーステージの起業家を支えるエコシステムのつくり方。


世界経済フォーラムはどんな起業家のコミュニティをもち、どれほどのインパクトを生み出しているのか。そして世界に「希望」はあるのか。

「信頼の再構築へ」というテーマを軸に、2024年1月15日から5日間にわたって開催された世界経済フォーラム年次総会2024(通称「ダボス会議」)。

今年は125カ国以上から350人の首脳や閣僚を含む約3000人のリーダーが参加し、セッションやワークショップの数は450を超えた。

複雑化するグローバルな課題解決に向けた議論が繰り広げられるなか、今回のダボスで注目したのは「起業家革命」を掲げる世界経済フォーラムのオープン・イノベーション・プラットフォームと、そこから花開いたイノベーターたちの躍動だ。

450人の「トップ・イノベーター」を輩出

ダボス会議3日目の朝、会場内の一室で記者会見が開かれた。会見の主体は世界経済フォーラムが主導するオープン・イノベーション・プラットフォーム「UpLink」(アップリンク)だ。その内容は、アーリーステージのインパクト起業家がイノベーションを通じてSDGsを加速できるよう、マニュライフ生命やサウジアラビア王国などから3700万スイスフラン(約62億円)を調達したというものだった。
 
アップリンクは、世界経済フォーラムがデロイトおよびセールスフォースと共同で20年に発足したテクノロジー主導型のプラットフォームだ。4年間で7万1000人以上の起業家や投資家、専門家、パートナーからなるエコシステムを構築し、58の「イノベーション・チャレンジ」と呼ばれるアイデアコンペを開催してきた。
 
コンペのお題は「水廃棄ゼロへの挑戦」「持続可能な航空への挑戦」「森林と健康への挑戦」など多岐にわたるが、いずれも世界が直面する喫緊の課題でありシステム変革が求められる分野だ。各コンペにはアイデアを支援する投資家やパートナーがつき、チャレンジごとに最も優れたアイデアと可能性をもつ「トップ・イノベーター」を選出する。世界経済フォーラムでアップリンクの部門長を務めるジョン・ダットンによると、評価基準は主に3点ある。革新性の高さ、財務的な観点、そして社会へのインパクトの大きさだ。
 
24年4月時点で、アップリンクが選出したトップ・イノベーターの数は450人にのぼる。彼らは「アップリンク・イノベーション・エコシステム」に招待され、ビジネスそのものや起業家自身の価値向上、ブランディングなどを幅広くサポートする1年間のプログラムに参加できる。
 
さらに、起業家たちは世界経済フォーラムのコミュニティやイニシアチブに加わり、同じゴールを目指すステークホルダーたちと交流できる。世界中からアーリーステージの優秀な起業家を発掘し、独自のイノベーション・エコシステムを通じてSDGsの進展を後押しする。これがアップリンクの活動のゴールだ。
 
世界中のリーダーが集う今年のダボス会議には12人のトップ・イノベーターが招待され、自社が手がけるテクノロジーやソリューションを披露した。そこには自らの信じる道を語り合い、世界中のステークホルダーと社会的インパクトの創出に挑むイノベーターたちの姿があった。
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文=瀬戸久美子 写真=世界経済フォーラム

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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