南北に細長いチリでは、西に太平洋、東にアンデス山脈があり、その間にワイン産地が縦に連なっている。一般に、西に近づくほど、寒流で冷やされた海風の影響を受け冷涼な気候となり、中央の平地は肥沃で温暖であり、さらに東の山側に近づくと、山からの冷涼な影響を受ける。
今回試飲したワインは、カベルネ・ソーヴィニョン等、ボルドー出身の品種を主体とし、これらの品種の栽培に適しているアコンカグア・ヴァレーとマイポ・ヴァレーから生まれている。
最初の試飲フライトは、エラスリスの創設者の名を冠した「ドン・マキシミアーノ」の1984年、2005年、2021年の3ワイン。チャドウィック氏が、「フラッグシップで、レガシーと伝統を表す」と自信を持つワインで、カベルネ・ソーヴィニョン主体で造られ、アコンカグア・ヴァレーのテロワールを表現したものだ。
会場となったマンダリンオリエンタル東京のソムリエたちにより入念に準備されたワインは、大きめの机の端に置かれたグラスに注がれた瞬間から、魅惑的なアロマが漂ってくるほどの香り高さだった。
このワインの最初のヴィンテージである1984年について、田崎氏は「複雑で芳醇な第一印象。ドライフルーツ、イチジク、プルーン、ナツメヤシ、そしてタバコやシガーの枯葉系、下草の香りを感じる。色調がレンガ色になっていることからもわかるように、酸化による熟成が進み、クローブやオリエンタルスパイス、木の樹脂の香りもある。果実味は柔らかで、タンニンがなめらかに溶け込んでいる。余韻は長い」とコメント。
当時はチリ特有の木樽を熟成に使用するなど、フランス産のオーク樽を使っている現在とは異なる造りだったが、「歴史をイメージしてもらうためにこのヴィンテージを選んだ」と田崎氏。
2番目のフライトは、「セーニャ」の1998年、2008年、2018年、2021年の4ワイン。こちらは、ロバート・モンダヴィとの合弁ワイナリーで、1995年が最初のヴィンテージだ。1991年に初めてチリを案内したときのことを、チャドウィック氏は、「モンダヴィ氏はすぐにチリのワイン産地としてのポテンシャルを見出し、4年間にわたり一緒に理想的なテロワールを探し回った」と振り返る。カベルネ・ソーヴィニョンに、カルメネールなど他品種をブレンドして造られる。
「カベルネがバックボーンの骨格や複雑性を与えている。アコンカグア・ヴァレーの中でも海岸により近い、若干冷涼な場所で育つブドウで造られるため、エレガントなワインです」とチャドウィック氏。たしかに、同じアコンカグアからのワインでも、1番目のフライトと比べると、酸の高さや伸びやかさ、果実の風味から冷涼な印象を受けた。
3番目のフライトは、「カイ(KAI)」の2010年、2015年、2021年。他のワインがカベルネ主体なのに対し、カイはカルメネール品種が主役だ。チャドウィック氏は、「チリを象徴するブドウであるカルメネールの、アコンカグア・ヴァレーでの最高の表現を示したく、2006年から造りました。そのため、名前もチリ固有のものにしました。カイとは先住民の言葉で植物を意味します」と言う。