アート

2024.09.04 14:15

ハーバード大学文化人類学者が沼った「日本のコンビニ」、その魅力

閉店する店、最終日までの涙の労働


──コンビニでアルバイトをしていた期間でもっとも印象的だったエピソードは何でしょう。「バックヤード」での体験などで何かあれば教えてください。


ホワイトロー博士:自分の研究の中で最も印象に残っているのは、2年近く店員として働いたコンビニの「閉店」を手伝ったことです。コンビニの閉店は、オーナーにも従業員にも、肉体的・精神的な負荷が重くかかります。

商品の数を減らし、残った商品のケアをし、可能であれば返品しなければなりません。「常連客」には閉店を伝える必要もあります。

オーナーは閉店後のスタッフの就職先を見つけることにも一生懸命でした。コンビニの閉店はちょっとした葬式のようでしたね。

私は、「年中無休、24時間営業の店」の人間関係の密度の濃さと道義心を目の当たりにし、感謝の気持ちでいっぱいでした。

最終日、ドアに鍵をかけ、窓のブラインドをすべて引き、入り口ドアに閉店挨拶の紙を貼った後でお客さんが訪れ、店に入ろうと入り口のドアを開けようとする音が聞こえました。ある従業員は切なさに涙をこぼしていました。

 ──日本のコンビニのもっとも魅力的な特徴はなんでしょう? 

ホワイトロー博士:オーナー、従業員、そして顧客です。

──どんな時に日本への郷愁を感じますか? 食べ物ですか、人ですか、あるいは「コンビニ」を思う時でしょうか?

ホワイトロー博士:郷愁、ノスタルジーですか、難しいですね。

新型コロナウイルス感染対策のための渡航制限で日本との行き来は3年近くストップしていましたが、幸いなことにそれも解除され、今では日本と定期的に連絡を取り合い、日本を実際に訪れることもできるようになりました。でも、たとえばこの20年の間に日本の風景から消えてしまったチェーン店のコンビニ、すなわち「ampm(2010年ファミリーマートにブランド統合)」や「サンクス(2018年に同じくファミリーマートにブランド統合)」、「サークルK(2008年に同じくファミリーマートにブランド統合)」の制服の写真を見ると、懐かしさを感じますね。

むしろ、こういった今はなきコンビニの名前を挙げただけで日本への郷愁を感じます。


ギャヴィン・H・ホワイトロー博士(Gavin H. Whitelaw, Ph.D.) ◎ハーバード大学ライシャワー日本研究所 エクゼクティブ・ディレクター。前・国際基督教大学教養学部 上級准教授。専門は文化人類学・民俗学・地域研究・日本研究。

取材・翻訳=石井節子

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