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2024.06.22 13:30

ローカルから誕生!未来を変える宇宙仕様の「医療と食」

MicroVent V3は、気管チューブや口を覆うマスクに装着して使用する。量産後はまず、救急救命士や医療従事者による使用を見込む。(c) 2021 STONY & Co., All Rights Reserved

MicroVent V3は、気管チューブや口を覆うマスクに装着して使用する。量産後はまず、救急救命士や医療従事者による使用を見込む。(c) 2021 STONY & Co., All Rights Reserved

米国主導の有人月面探査「アルテミス計画」で近い将来、日本人の宇宙飛行士も月へ行く時代がくるだろう。宇宙での長期滞在を見据えて、日本発の新技術が注目されている。3つの先端事例を紹介しよう。


患者を救う、小さな人工呼吸器 宇宙開発で乗り越えた「地上の壁」

1. MICRO VENT V3(マイクロベント ブイ スリー)

地上での開発だけでは道が開けなかった、医療機器の小型化を宇宙で成功。技術は再び地上に戻り、量産化されることで多くの命を救うことになるだろう。

鉛筆削りのような手のひらサイズのデバイスは、宇宙での製造・動作実験を経て、量産化に向けて開発された簡易の人工呼吸器だ。神戸大学大学院の未来医工学研究開発センター客員准教授で医師の石北直之が10年以上研究開発に取り組んできた。従来の人工呼吸器は、大型の機械が電源につながり、医療従事者による操作が必要だった。しかし石北が開発したのは、空気圧駆動式で電源が不要。使用方法も簡便なため、災害時の救命活動などで活用できる。

基となるアイデアを石北が着想したのは、2010年のこと。けいれん発作を引き起こした患者は脳に障がいなどの影響を残さないために一刻も早い治療が必要だが、注射で麻酔をかけるのに時間を要するという問題があった。そこでガス化した麻酔を患者に吸わせる簡易吸入麻酔器「嗅ぎ注射器」を考案。岩手県八幡平市で精密プラスティック部品製造を手がけるニュートンに話を持ちかけ、嗅ぎ注射器のプロトタイプを開発した。

宇宙実験に成功 薬事承認の道開く

試作には成功したが、医療機器として使うためには薬事承認の壁が立ちふさがる。その取得には数億円もの治験費用が必要だ。そこで石北は、宇宙で機器が使われることで研究が広く知られ、承認の手続きが進展するのではと考えた。13年、嗅ぎ注射器から派生した空気圧駆動の人工呼吸器の開発を並行して始め、NASAに提案すると「将来必要になるシステムだ」と評価され、15年にNASAと共同で3Dプリンターで人工呼吸器をつくるプロジェクトを立ち上げる。

17年1月には、世界で初めて国際宇宙ステーション(ISS)上の3Dプリンターへ設計データを転送し、人工呼吸器のパーツを成型する実験に成功。この実験では、NASAの宇宙飛行士が人工呼吸器を組み立て、ISS船内の無重力環境下で動作させる試験にも成功した。石北は「宇宙環境で実現させるため2年間は試行錯誤の連続でした。特にバネの成形は3Dプリンターでは難しく、樹脂素材を使い、庫内温度が80℃の宇宙食加温器で温めることで実現した」と振り返る。
 
コロナ禍をきっかけに経済産業省などの支援もあり、この研究成果の後続となる3Dプリント可能な人工呼吸器「?VENT」に加え、同等の性能をもつ金型製造モデルの人工呼吸器「MicroVent V3」を開発し、後者は21年8月に薬事承認を取得した。23年には、本誌スモール・ジャイアンツ アワードの受賞歴もある、精密パイプなどの医療機器メーカー栃木精工がニュートンから製造販売を継承。代表取締役社長の川嶋大樹は「緊急時の利用を想定して、病院や航空関連の企業、官公庁、自治体など、幅広く引き合いがある」といい、25年4月の上市を目指す。「宇宙空間ではローテクで使い勝手のいい道具が必要。この精度を限りなく高めてつくるのが日本の強みだと考えています」
 
石北は「AEDのようにあらゆる場所に備え付けられ、多くの人の命をつなげるように願っています」と小型の人工呼吸器が普及する未来を描く。
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取材=督あかり 文=加藤智朗

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