リーダーシップ

2024.06.21 15:00

これからの私たちに必要なのは、未来を見据えた「モラル・リーダーシップ」の実践だ

ジャクリーン・ノヴォグラッツ|非営利団体アキュメン創業者・最高経営責任者(Mark Shaw)

アフリカなどの貧困問題を解決しようとする社会起業家に「忍耐強い資本」を投資してきた「アキュメン」創業者・最高経営責任者による未来のリーダーたちへの提言とは──。


「今こそ、モラル・レボリューションが必要だ」。こう熱く語るのは、米非営利団体「アキュメン」(ニューヨーク)の創業者・最高経営責任者であるジャクリーン・ノヴォグラッツだ。
 
アキュメンは、アフリカなどの貧困削減を目指し、長期視点で社会起業家に投資を行う。ノヴォグラッツは、『世界はあなたを待っている──社会に持続的な変化を生み出すモラル・リーダーシップ13の原則』(英治出版、北村陽子・訳)の著者でもある。アフリカ行きを控えた多忙な彼女に、なぜ「モラル(倫理)」が世界を変えるカギなのかを聞いた。

──なぜ今、「モラル・レボリューション(倫理革命)」が必要なのですか。

ノヴォグラッツ:この40年というもの、テクノロジーの進化とグローバル化による市場開放のおかげで、世の中は一変した。極貧の人々の割合は1割を切り、地球上には携帯電話があふれている。

だが一方で、抑制を失ったテクノロジーと株主資本主義が私たちを分断し、不平等にした。気候変動も、もはや抜き差しならない状態だ。また、戦争や紛争のせいで信頼や希望を失い、未来も見通せない人々がいる。暴力は格差を生み、気候変動も格差に拍車をかけている。だからこそ、モラル・レボリューションが必要なのだ。

モラル・レボリューションとは、テックやビジネス、政治など、生活のあらゆる面を再構築し改革するための新たな発想を指す。「モラル」とは、個人や集団としての人間の存在価値を高める一連の原則であり、他者の利益にフォーカスすることだ。
 
モラル・レボリューションは、「集団」を重視するアジアの文化と相性がいい。私たちは人工知能(AI)より人間を優先させ、利己心を捨てて持続可能性を大切にし、脆弱さを増す惑星を共有する「地球市民」としての自覚をもたねばならない。

──変革者には、「未来を見据えるモラル・リーダーシップ」があるそうですね。

ノヴォグラッツ:著書で挙げたモラル・リーダーシップの原則は変革者から学んだが、誰もが実践すべきものだ。資本主義対共産主義など、体制の違いをはじめ、宗教・アイデンティティの違いや分断を乗り越え、世界はつながっているという自覚をもつべきだ。モラル・レボリューションとは、自分の人生と尊厳は他者の人生と尊厳に依拠しているという「謙虚な認識」を礎とする。

モラル・リーダーシップには、「とにかく始める」ことや「成功を再定義する」こと、「モラル・イマジネーションを育む」ことなど、いくつもの原則がある。そうした原則を体現している一例が、投資先である南米コロンビアのカカオ生産・輸出企業「カカオ・デ・コロンビア」(2009年創業)だ。同社は、コロンビアの男性と日本出身の小方真弓が率いるベンチャーだ。ふたりはモラル・リーダーシップを駆使し、内戦の後遺症などの傷跡が残るコロンビアにカカオ産業を根付かせるべく奮闘した。
 
この試みの実現には時間がかかり、潤沢な資金の保証もなかったため、同社は(画一的な尺度に照らした)「成功」という概念を「再定義」した。そして、地球を守ることを自らの責任だと考える先住民を説得し、パートナーシップを築いた。
 
また、モラル・リーダーシップには、「美しい闘いを引き受ける」という原則もある。世界を変える闘いは長い道のりであり、柔軟性と立ち直る力が必要だ。私自身がそうだった。若かりしころ、ルワンダに同国初のマイクロファイナンス銀行を設立したが、1994年のルワンダ大虐殺で多くの友人を失い、無力感にさいなまれた。私が何とかもちこたえられたのは、闘いの中に「美」を見いだしたからだ。
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インタビュー=肥田美佐子 イラストレーション=ベルンド・シーフェルデッカー

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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