サイエンス

2024.06.08 10:15

AIがあいづちを覚えると、より親密な話し相手になるかも

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現在のAIとの会話は、人が何かを言うと、AIがそれを聞いてちょっと考えて答えるというキャッチボールで成り立っている。順番に話し手が入れ替わる「ターンテイキング」、つまりこれが対話だ。しかし人間同士の会話は、話の途中であいづちを打ったり、相手の言葉に被せてなにかを言ったりという、双方の話が重なることが多い。そうして協調的に会話を進めることを「ターンカップリング」または「共話」という。早稲田大学などによる研究チームは、共話ができるAIボットを開発し、AIとのより親密な会話を可能にする研究を進めている。

早稲田大学とクロスラボ研究所による研究チームは、会話にあいづちを挟む「あいづちボット」を開発した。実験の結果、人がボットに親しみを感じて会話が協力的になることが確認できた。また人はボットに対して「人間らしさ」も感じたという。このように、あいづちひとつでAIとの会話がぐっとリアルに親密になるということだ。

会話の基本はターンテイキングであり、話者同士の言葉がオーバーラップするのは好ましくない問題であるとする考え方がある一方で、古くから協調的なオーバーラップは会話への「積極的な関与」を示すもので、話のターンを相手から奪おうとする「支配的な中断」ではないという主張もあった。日本語教育学者の水谷信子氏は、「共話」という言葉を提唱し、それはオーバーラップで互いの話を補完し合う協力的な会話スタイルの大切な要素だと主張した。
図:本研究で提示した共話=synlogueと対話=dialogueの対比 [川田(1992)のシンローグの記述を参考にしつつ、水谷(1993)の図をチェン(2020)が再構成した]

図:本研究で提示した共話=synlogueと対話=dialogueの対比 [川田(1992)のシンローグの記述を参考にしつつ、水谷(1993)の図をチェン(2020)が再構成した]

コンピューターとの会話の研究はターンテイキングを基本とするものが多いのだが、早稲田大学の研究は、協調的なオーバーラップやあいづちによる共話の成立を目指すものだ。人間同士の会話を解析して協調的なあいづちが入るタイミングを予測。あいづちボットでビデオチャットを想定した人との会話シミュレーションを行い洗練させていった。それにより、あいづちは会話を促進させること、そしてオーバーラップで中断した不完全な部分は互いに補完して、自然で、かならずしも共通の結論を目指さないオープンエンドな会話が成立することがわかった。

共話のメリットは大きい。コミュニケーションの質の向上、異なる立場の人たち同士の会話を円滑化することによる社会的分断の緩和、教育と学習の促進、メンタルヘルスの向上などだ。ただし、あいづちボットがあまりにも人間らしくなり過ぎると、逆に会話する相手が緊張してしまう場合もあるとのこと。会話にも「不気味の谷」が存在するようだ。適度な「人間らしさ」のバランスが今度の課題だと研究チームは話している。

プレスリリース

文 = 金井哲夫

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