このようななかで、東京都と大阪府は、高校の授業料無償化の所得制限を撤廃する方針を示した。公立や私立を問わず全ての高校生の授業料が実質ゼロになる。東京都では2024年度から実施され、大阪府では2024年度に3年生から順次導入され、2026年度には完全実施される。
高校の授業料は2010年から、国が「高等学校等就学支援金制度」を導入し、世帯年収910万円未満であれば、公立高校は全額が、私立高校では一部が無償となった。これに上乗せして都道府県が独自支援をできるが、結果として、財政にゆとりのある東京都と大阪府が、全国の都道府県のなかでは支援が最も充実することになる。
そんななか、神戸市は高校生の定期券代を全額助成することを決めた。対象者は約2万人で、通年だと約20億円の予算が必要だが、高校生を持つ世帯の負担額で大阪との差が明らかになれば、人口の流出につながりかねないとの考えから導入した。神戸市の実情はどうなのか、深掘りしてみた。
人口流出で神戸市が抱える危機感
神戸市に住んでいる高校生の授業料は、兵庫県による上乗せ助成が適用される。ここでまず大阪府との違いを比べてみたい。公立高校に通うのであれば、世帯年収が910万円未満だと、約12万円の授業料が国の支援金で全てまかなわれるので、兵庫県と大阪府では差はない。ただ、年収が910万円以上となると、兵庫県では支援措置はなく、約12万円の授業料が個人負担となる。
また私立高校であれば、年収が590万円未満であれば、兵庫県の上乗せ措置が私学の平均の年間授業料44万円をカバーできるので、とりあえず大阪府との差はない。
ところが、年収が590万円から910万円の層では、大阪府は授業料が無償だが、兵庫県では約20万円から約26万円が、年収が910万円以上だと全額の44万円が自己負担となる。
ということは、私立の高校を選ぶのであれば、大阪府と兵庫県を比べると負担額に大きな差が出てきて、圧倒的に前者が有利なのだ。これならば親たちは、阪神間でどこに住むのかを考えたときに、大阪府内を選ぶ傾向が強まるかもしれない。そうなると子育て世代の流出につながりかねないと、神戸市は危機感を抱いたわけだ。
ただ、国の制度によると授業料を上乗せ助成できるのはあくまで都道府県。市町村にはその権限がない。どうすればよいのか考えた神戸市は、制度の枠外となる通学費の無償化に舵を切った。
それでも大阪府の授業料無償のほうが得に見えるが、必ずしもそうでもない。公立高校なら年収910万円未満、私立高校なら590万円未満なら大阪府と兵庫県ともに授業料は無償なので、神戸市の通学費助成は純粋にプラスになる。