スタートアップ

2024.05.25 08:30

「デカコーン工場」の次を目指す!YコンビネーターCEOの大いなる野望

タンによる改革がひと段落したいま、YCはプログラム参加者を再度増やす誘惑に駆られる可能性がある。チェスキーによれば、同社はすでに新たなグループパートナーを探しているという。十分なメンバーを揃えられれば、さらに数十人分の参加枠を増やすことができる見込みだ。グレアムをはじめとするYC関係者は、現在の合格率の低さを嘆いている。

「十分に優秀なスタートアップは、すべて受け入れるべきです。もしパートナーが足りないのであれば、その穴を埋めるためにも一生懸命になる必要があります」 

一方でタンは、YC参加者や卒業生によるネットワークは大きいほどいいという考え方に同意するものの、同社のプログラムは「ミシュランで星をもつ高級レストランのシェフが料理を提供するようなもの」だと例える。起業家一人ひとりに向き合う行き届いたサポートこそ、YCが提供するべき価値だということだろう。

「グループそれぞれがフランス料理の高級レストランであり、グループパートナーはそのシェフなのだと、各パートナーには理解してもらいたいですね」

ここまでタンによる改革の成果を見てきたが、片や一部のYC出身起業家は、彼が起こした変化を冷めた目で見ている。グループパートナーに権力を集中させようとするタンの動きは、23年、YCの参加者審査や投資、リサーチを担う多くの非中核部門のスタッフに対する、突然のレイオフにつながった。

タンは、迅速かつ断固たる態度で人員削減を敢行。23年3月にはYC卒業のスタートアップへ投資を継続するファンド、コンティニュイティ・ファンドとその関連プログラムがすべて閉鎖となり、正社員の約20%に当たる17人が解雇された。タンは「戦略の転換によるものだ」とその理由を説明している。

パートナーのアヌ・ハリハランとともにコンティニュイティ・ファンドを率いていたアリ・ロウガニは、人事部の社員と一緒にZoomを通じてスタッフへ人員削減について伝えた。情報筋によると、タンはこのZoomの会議には出席しておらず、ほとんどの従業員は異動に関する全社向けのメモが共有される前にメールを見られなくなったため、タンから直接連絡を受けることもなかったという。

ファンドの閉鎖で突然取締役がいなくなったおよそ20社の対応によって、YCの評価はさらに傷つくこととなる。当時報道されたように、BrexやDeel、Monzo、Rappi、Whatnotといった最も著名な直近のYC卒業生たちは、同社の取締役会宛ての書簡に署名し、この動きを非難。YCがファンド閉鎖の決定を再考するか、少なくともロウガニとハリハランを取締役会に残すよう求めた。しかし、彼らがこれを受け入れることはなかった。「もし同じ立場に置かれれば、私だって憤慨したにちがいない」と、タンは振り返る。「YCは、アヌとアリの次の挑戦を応援する。そしてこれから先も、協力し合えるよう願っている」。コンティニュイティの支援を受けていたある起業家は、ファンド閉鎖とその後の処理が、YCを率いるタンの能力に対する信頼を揺るがしたと語った。
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文=アレックス・コンラッド イラストレーション=ドンヒュン・リム / フォリオ・アート 翻訳=上田裕資 編集=加藤智朗

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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