映画

2024.05.18 14:15

「俺が死んでも詐欺はなくならない」 振り込め詐欺の現場を描く映画「声/姿なき犯罪者」


(c)2021 CJ ENM Co., Ltd., SOOFILM ALL RIGHTS RESERVED

ちょっとした体育館くらいの広さの部屋に、ギッシリ並んだ机。その上に置かれた特殊な通信機器とスマホを操作して、詐欺電話をかけ続ける「かけこ」たち。食い詰めたり借金を抱えたりして一攫千金の甘言に釣られてやってきた、若者から中年まで優に百人を超える男女がひしめき合っているさまは壮観だ。

彼らは背番号で呼ばれ、外部との接触を断つために宿舎で寝起きし、チームを組んで朝から晩まで、「台本」に従って弁護士役、警官役、銀行員役などを演じている。失敗し相手に切られると、すぐ次のターゲットに電話がかけられる。成功すれば笑みとガッツポーズが出る。高額報酬を餌にチームで競わせる仕組みだ。

彼らは完璧に管理されている。常に監視官の目が光り、相互でも監視させるシステムが行き渡っているのだ。恐ろしいほどの緊張感と妙な高揚感が、空間全体を支配している。

「色の使い方」に注目

このコールセンターの美術が面白い。中国にあることが意識されており、随所に赤いカーテンが張りめぐされ、「かけこ」達の作業服も暗い赤、プラスチック椅子も赤、食堂のトレイも食器も赤、と徹底している。
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つまりここでは、全員が大きな目標のもとに一括管理され、怠慢はもちろん疑問を抱くことも許されず、互いに見張りながら揃ってひとつの事業に邁進するという、「悪しき共産主義」のイメージが使われているのだ。

同時に彼らの犯罪は、金が至上の価値となり、強い者は肥え太り弱い者はますます貧しくなるという、資本主義の裏面をそのまま反映するものでもある。

政治的には共産主義の一党独裁を掲げる中国が、経済的には資本主義国家として、現在アジア47カ国のGDPの半数を占めるに至っているという現実が、このコールセンターの仕組みや意匠、全体の雰囲気を作っていく上で意識されているのは間違いないだろう。

色の使い方は、組織管理者たちにおいてもわかりやすく際立っている。各地で”危険な任務”に就くギャング紛いの者たちを統括するチョン(パク・ミョンフン)は、いかにも裏世界の住人らしく、常に黒づくめだ。顔つきも恐ろしげな強面で決して笑わない。彼の部屋は、このビル内のわかりにくい場所にある。

一方、ビルの3階にガラス張りの事務室を構え、コールセンターの支配者然としているクァク(キム・ムヨル)は、白づくめのファッション。七三に分けた髪に銀縁眼鏡をかけ一見優男風の風貌だが、芝居がかった異様なテンションで「かけこ」達を煽る一方、自分に近づいてきたソジュンを暴力的にひざまずかせる。

終盤、事態が急速に動いていく中で、クァクの狂気も次第に凄みを増してくる。組織壊滅を目前に「俺が死んでも詐欺はなくならない」というクァクの捨て台詞。それと呼応するように、意外な人物の意外な行動で幕を閉じるこのドラマは、振り込め詐欺根絶の困難さを示してもいる。

『声/姿なき犯罪者』Blu-ray & DVD発売中 発売・販売:ツイン(c)2021 CJ ENM Co., Ltd., SOOFILM ALL RIGHTS RESERVED

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文=大野左紀子

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