映画

2024.05.18 14:15

「俺が死んでも詐欺はなくならない」 振り込め詐欺の現場を描く映画「声/姿なき犯罪者」

主人公のソジュンは実は元刑事。ちょっと出過ぎた行動をしたため職を辞し、今はガテン系の仕事に就いている。「組織からはみ出した一匹狼」は、ヒーローによくある設定だ。もともと麻薬捜査に携わっていたという過去も、振り込め詐欺の犯罪組織への単独潜入という行動とスムーズに繋がっている。
(c)2021 CJ ENM Co., Ltd., SOOFILM ALL RIGHTS RESERVED

家族や仲間が被害に遭ったという個人的な恨みと怒りが、彼の「正義」の行動を加速させている点も定石通り。いささか無謀な行動力、怪我をものともしない体力と精神力なども、過去のヒーローたちの典型だ。ソジュンを演じるピョン・ヨハンは、単独アップで大画面を持たせられる力量があるが、以上のようなプロトタイプのため、人格の複雑な深みには若干欠けている。

さて、一人で闘おうとする元刑事は、現役時代に縁のあった脛に傷持つ裏社会の住人を、自分の協力者に取り込むものだ。ここでは、有能なハッカーの若い女イ・ギュホ(キム・ヒウォン)がそれに当たる。時折絡んでくる間抜けな小悪党と共に、彼女はコメディリリーフとしてドラマに軽快なアクセントをもたらす役目も果たしている。
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また、ソジュンが警察署の元上役に当初は反発するものの、事件の動きに伴いやや遅れて警察が動き出し、あわやのところにギリギリで踏み込んでくるシーンも。他、激しい暴力シーンやエレベーター昇降路の乱闘、天井裏の逃走劇なども揃っている。

ストーリーは、冒頭のエピソードと同じように引き締まった画面の強度を保ったまま、めりはりをもって無駄なく進行し、全体としてエンターテイメントとしての質は高く保っている。
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犯罪の内部を隅々までえぐり取る

では、この作品のどこが一番の見どころなのか。

それは、こうした従来通りの”様式美”に乗せるかたちで、振り込め詐欺というアクチュアルな犯罪の内部を、隅々までえぐり取るように描き出したところにある。

まず、麻薬組織と同様のピラミッド構造が、下から徐々に示されていく。通信網を遮断し、現場を撹乱させ、金を引き下ろして車で逃走する”行動班”は、敏速そうな若者たちだ。その裏で、偽の電話を掛ける「かけこ」と呼ばれる者たちがいる。そして彼らを統括するトップ集団。こうした組織構造は、多くの振り込め詐欺の背後に実際に存在するものだろう。

詐欺被害者を集めた警察署の説明会で「盗まれた金は洗浄されて中国に流れている」との情報を得たソジュンは、韓国の振り込め詐欺の基地室長に仲間のふりをして近づき、中国のホテルで自分をつけていた組織の者たちに拉致され、潜入を目論んでいた犯罪現場であるコールセンターのあるビルに連行される。
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文=大野左紀子

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