「日々死の現場に向き合っている人たちに見えている景色はまったく違うものだと思う」と敬意を払いつつも、「それだけが正しい死ではないし、いろいろな捉え方があっていいのでは」と語る小野さん。
そうして悪戦苦闘しながらプロジェクトを進めていく中、 2人は相次いで親族を亡くすことになる。そして、得た大きな気づきがあった。葬送業界では、一般的にユーザーとの対話を重視していないということだ。
「死を悲しむ暇もなく、明日までにこれとこれを決めて、次は火葬です、って。後になって明細を見たら、これは一体何だろうって項目が入っていた。ブラックボックス化しているパッケージを売りつけられているように感じました。
フェスの準備を進める中でも、同じように、葬儀がモヤモヤする体験や心残りになってしまっている人に多く出会いました。現状では、一人ひとりがどうやって大切な人を弔いたいのかということになかなか寄り添ってもらえないと感じました」(小野さん)
一方で、生前に自分がどう見送られたいかという葬送の希望を話す機会が少ないことも明らかになった。
起業家としてのキャリアのなかで“当事者と共に考える”ということを積み重ねてきた2人は、そこにDeathフェスの存在意義と葬送業界の伸び代を感じた。
「死なない人はいない。かと言って、既に死んだことがあるという人は当然ながらいないので、死というテーマは平等です。本来、誰もがユーザーとして同じ温度感で話せるテーマのはず。対話が生まれたら、みんなにとってよりよい選択に繋がっていくと確信しました」(市川さん)
誰もが自由に対話できる場を設計
そこで、Deathフェスでは対話が生まれるようなコンテンツづくりに力を入れた。特にワークショップでは“没入型体験”をテーマに、VRによる地獄体験や入棺体験など、死の疑似体験から参加者の当事者性を引き出した。一般社団法人 みんなの仏教 代表理事であり日蓮宗妙法寺住職の久住謙昭さんによる「地獄VR」は、仏教とテクノロジーが融合したハイブリットコンテンツ
参加者は法話を聞いた後にVRゴーグルを装着し、地獄を体験する
特に印象的だったのは入棺体験だ。ワークショップでは、自分の大切なものを紙に書き出して整理し、自分自身や大切な人に向けた弔辞を作成した後に棺に入る。入棺後にその弔辞が読み上げられ、棺の中で“死んだ状態”で自分に向けてのお悔やみの言葉を聞くのだ。