「きっかけとして、死にまつわる何か個人的な出来事があったというわけではないんです。よりよく生きるとか自分らしく生きるとか、人生における選択に興味を持って事業活動を続けてきました。その中で、死というキーワードを使ってエンディングから考えると違う発見があると気づいて」と市川さん。
一方、小野さんは2019年にアメリカで合法化された有機還元葬をなんとか日本でも実現できないかと考えていた。そんな折、市川さんの会社が企画するワーケーションプログラムで有機還元葬を含むエンディングの話題で盛り上がったことで、2人の間で「死をテーマにしたフェス」のアイデアが生まれる。
市川さんと小野さんは、東日本大震災当日に偶然にも同じ空間に居合わせていたそうだ。そのことも死というテーマに2人で取り組む必然性を感じさせた。「伏線回収」と市川さんは笑う。
筆者はそんな2人の話を聞いて、死がテーマとあるだけにどこか悲劇的でエモーショナルなエピソードを求めていた自分自身に気づく。死は生と地続きのライフイベントであって、特別なことではないのだ。
Deathフェスの実現に向けて2人が意気投合したのが2023年2月。そこからは早かった。4月14日を“よい死の日”と設定し、渋谷でフェスを開催するということだけを決め、NPO法人ETIC.が運営する越境プロジェクト「Beyonders(ビヨンダーズ)」に応募、採択される。そこで共感する仲間を集めると、さらに公募プログラム「QWSチャレンジ」採択へ。クラウドファンディングを経て、念願のDeathフェス開催まで漕ぎ着けた。
一般社団法人デスフェス 共同代表 市川望美さん(写真奥)、小野梨奈さん(写真手前)。地域密着型の放送局「渋谷のラジオ」で、毎週金曜レギュラー番組「渋谷でDeathラジオ」のパーソナリティを務める
ユーザーとの対話が鍵になる
Deathフェスには協賛企業として5社が名を連ねたが、スポンサー探しは最初から順風満帆なわけではなかった。ビヨンダーズでも、多くの個人プロボノの賛同を集めたのに対し、企業関係者からはそのテーマの重さからか、一切声がかからなかった。協働を求めて足を運んだ葬送業界からは厳しい意見もあった。計6回開催したDeathフェスカウントダウンイベントには、のべ200人が参加し、注目度の高さが伺えた