では、いったいなぜ現在の金星は、干からびた地獄のような環境であり、地球と比べて10万分の1の水しか存在していないのだろうか?
5月6日に『ネイチャー』で発表された最新論文で惑星科学者らが主張しているところによれば、金星が水を失う速さは、これまで考えられていたよりも2倍も速いという。
宇宙へ逃げる
この研究のコンピュータシミュレーションでは、金星の大気のうち、高度が高いところにある水素原子(より明確にいうとHCO+、ホルミルイオンと呼ばれる分子)が宇宙空間へ逃げていることが示唆されている。金星にある水は、大気中に存在している。全部を合わせると、惑星全体に深さ1.2インチ(3cm)の海をつくれるくらいの量だ。対する地球には、惑星全体に深さ1.9マイル(3km)の海をつくれるだけの水がある。
「地球とほぼ同じ大きさと質量でありながら、金星には地球の10万分の1の水しか存在しない」この研究の共同筆頭著者で、コロラド大学ボルダー校の大気宇宙物理研究所(LASP)で研究を行うマイケル・チャフィンはそう述べる。
生命の探索
この研究は、惑星科学者が宇宙で水を探す上で、さらには生命を探す上で役立つかもしれない。どの恒星でも、その周囲にハビタブルゾーンが存在する。つまり、水が蒸発しきってしまうほど熱くなく、凍りつくほど寒くもない領域のことだ。しかし、金星が実証しているように、惑星の軌道がハビタブルゾーンにあるだけでは、その惑星に生命が存在する可能性があるとは言えない。「水は生命にとって極めて重要だ」LASPの科学者で、この研究の共同筆頭著者でもあるエリン・カンジは述べる。「宇宙で、液体の水が維持される条件を理解する必要がある。そうした条件が、現在の金星における水のない状態を生んでいるのかもしれない」