温室効果
金星と地球の運命が分かれたのは、10億年前ごろのようだ。かつては地球と同じくらいの水があったが、金星大気に含まれる二酸化炭素の雲が、強力な「温室効果」を発揮するようになり、表面温度が華氏900度(摂氏482度)まで上昇し、それにともなって水が蒸発したと考えられている。とはいえ、金星がこれほど乾燥している理由を説明できるのは、金星大気におけるHCO+の存在だ。ただし、これはシミュレーションによる仮説であり、この分子が実際に金星に存在するか否かは、現段階でははっきりしていない。
今回の知見の発表に先立ち、金星では最近、生命存在の兆候と考えられる「リン」が、(気体のかたちで)発見されている。最初に発見されたのは2020年だが、金星大気にホスフィンの痕跡が存在すると推測されることが2023年に確認された。ホスフィンは、水素とリンからなる分子(PH3)で、地球上では気体(可燃性のある有毒ガス)だ。
金星をめざすミッション
各宇宙機関は、火星と比べて金星を軽視してきたが、その状況は変わり始めている。現在、火星を詳しく調べるための3つのミッションが計画されている。・米航空宇宙局(NASA)のDAVINCIミッションでは、金星表面にプローブ(着陸機)を送りこむ(2029年打ち上げ)
・NASAのVERITASミッションでは、軌道から金星の火山の地図を作成する(2031年打ち上げ)
・欧州宇宙機関(ESA)のEnVisionミッションでは、軌道から金星内部を分析し、大気中の微量ガスを調べる(2030年代前半打ち上げ)
残念ながら、上述のいずれのミッションでも、金星大気におけるHCO+の存在を確認することはできない。どの探査機にも、HCO+を検出できる計器が搭載されないからだ。今回の研究に関わった科学者らは、将来のミッションでは実現するかもしれないと期待を寄せている。
「これまで、金星をめざすミッションは多くはなかった」とカンジはいう。「けれども、新たに計画されるミッションでは、数十年にわたって蓄積されてきた経験と、高まりつつある金星への関心を生かし、極限環境にあるこの惑星の大気や進化、生命居住可能性が探られることだろう」
(forbes.com 原文)