VC

2024.05.19 13:30

【日本VC名鑑】 2023年設立ファンド編

国内VCアセットの高度化に必要なこと

日本のVCアセットクラスが盛り上がってきたことは大いに歓迎している。ただし、まだまだ発展途上の段階であることは否めず、残された課題も少なくない。スタートアップ投資の拡大や日本発のグローバルプラットフォーム企業の創出のためには、自国の投資家のみに依存しない国際協調投資の拡大や、国内外の機関投資家から安定的に評価されるようにVCアセットを高度化させることが不可欠だ。

その重要なステップが、適切な規制と共通評価体制の導入だ。米国を中心に海外では、他の投資アセットと同様にファンドマネジャーの業務の明確化やコンプライアンス体制、金融商品としての要件の強化が制度化されてきており、未上場株の価値評価に対する仕組みも整備、確立されてきた。こうした動きをしっかりと理解し、その仕組みに参加する、接続していくことが大切だ。

未上場株の評価について、もう少し詳しく説明しよう。米国では、IPEVと呼ばれる米国会計基準に基づいた評価ガイドラインがあり、法的拘束力こそないものの、LP投資家はこれに沿った評価を求めることが一般的で、標準的な評価手法として定着している。IPEVに基づく評価に必要な指標データも業種や成長ステージごとに整備が進んでおり、適切な評価プロセスと指標データの使用をチェックする監査法人や第三者評価機関も発達している。その結果として、未上場株式であっても、他のアセットやファンド間で横断的な比較が可能となり、グローバルなLP、機関投資家からの投資や成功した投資案件、ファンドモデルのさらなる促進を図れるようになっている。

評価ガイドラインの導入は、一部で誤解されているような日本版のルール設定で終わるものではないことも重要なポイントだ。ルールだけ整備しても、指標データが標準化されていなければ横断的な評価にならないし、適切な運用を確認する監査などの仕組みが整備されなければ結果は不十分になる。この前提に立つと、日本独自の制度をつくることは、グローバルなLPや機関投資家に対して、国際標準との差異を説明するコストが高くつくことに加え、実務運用していくためのインフラ整備のハードルを自ら上げることになってしまう。

VCアセットの高度化は、業界だけの努力で実現できるものではない。VC、起業家、LP投資家、制度設計者、監査法人や法律事務所といったプロフェッショナルファームまで、エコシステムにかかわるすべての人たちが相互に連携し、国際標準的な正しい知識と高い規律の浸透を図り、制度設計やインフラ整備に取り組んでいく必要がある。難易度が高く気の遠くなるような作業だが、私はできるだけ協力したいし、貢献していきたい。


中村幸一郎◎SOZO Venturesマネージング ディレクター。米Forbesの「Midas List」に日本人として唯一選出された投資家(2023年は55位)。

文 =フォーブス ジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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