2. ポスチャーとジェスチャー
演説中の身振り手振りなどジェスチャーは、より大きい方が良い。特に日本人は、手を動かして話に表情をつける際に、かなり慣れている人でも自分の体の幅以上に腕が広がらないのだ。筆者はこれを「”前へ倣え”の呪縛」と表現する。自分の腕を前に伸ばした幅以上に手や腕が外側に広がらないからだ。脇が閉まっていて、「警戒している」「発信することを戸惑っている」という印象を与える。また、体の正面だけで手元がちょこちょこ動くので、せせこましくゆとりが無い感じを強調してしまうこともある。それぞれの指の動きが揃わずにバラバラしているのも、同様だ。一方で、体の幅よりも腕が外に広がり、指先の動きが落ち着いていれば、メッセージは発信者の中から外へと向かって発信され、強く伝わっていく。
ただ、大袈裟すぎるジェスチャーは禁物だ。日本人の場合は特に、かえって嘘くさくなってしまうことがある。日本人にとって最大限の”腕を広げる範囲”は、石川さゆりさんが「天城越え」を歌う際のパフォーマンスをイメージをすると良い。
また、ポスチャー(姿勢)についても、落ち着きの無さを感じさせる一因となっていた。岸田総理は演説中、プロンプターを見つつも視線を会場の各方面へと順番に向け、体の向きも変えながら喋っていた。緊張と余裕が足りないせいでその動きが早くなりすぎ、一方で話すスピードは遅めだったため、一層落ち着かない様子に見えた。
練習時に、見る方向を順次ゆっくりと変えながら話すようにと指導されていたのだろう。しかし本番ともなると、自分が思う以上に動きが速くなる(逆に止まってしまうこともあるが)。この動きが忙しないと聴衆も落ち着かなくなり、場合によっては話者の動きが気になって話が耳に入ってこなくなることもある。
しっかり話を聞いてもらうためには、相手を急かすような動きをしないことが大切。人というのは、目に見える動きに反応し同調する。裏を返せば、適切な動きと発信をすればそれに同調してもらえるのだ。
3. 歯のホワイトニングの幅
岸田総理が歯までケアしたであろうことは、アメリカ的にもとても良いプレゼンスの準備だった。しかし、その幅が足りなかった。筆者の友人も強く言っていたが、アメリカの人が見ると「どうせならもっと奥まで……」と気になってしまう点だった。岸田総理が白くした歯は前の8本ほど。簡易的なホワイトニングを行うと、彼のようにパッと口を開いて見える前歯にあたる部分だけが白くなる。しかし、ビッグスマイルをするとそれよりも奥の歯が当然見えて、そことの差がはっきりするために、かえって妙に見えるのだ。
前歯をホワイトニングした岸田総理 / Getty Images
以上の3点が、岸田総理の演説に見た「あと一息!」というという点。ダメ出しではなく、次回への課題と改善できるという期待である。おそらく、多くの人々が気づかずにやってしまっていることではないだろうか。
演説中、10回以上の拍手が起こり、自然な笑いも起こした岸田総理の演説。企業トップは勿論のこと、英語が苦手ではないビジネスパーソンは、是非とも岸田総理以上のレベルを目指して欲しい。レベルの高い演説は、政治の世界のみならずビジネスの世界においても、国際舞台での日本プレゼンスを高め、日本の存在を強固なものにしていけるひとつの方法だから。