(大谷選手の実際のコメント)
まあチャンスだったので、あの、どんどんストライクに来たら振ろうと思っていて、まあ、結果いい結果になったので、すごくいいホームランだったなと思います。(水原氏の通訳:ChatGPTによる和訳)
はい、何人かのランナーが出ていましたし、大きなヒットを打てばリードを奪えると分かっていたので、ストライクをスイングしようと狙っていました。──打者にとって「チャンス」と言えば、日本語の行間では塁上にランナーがいることを指す。これは広く日本では理解されている。
しかし英語に通訳する際、チャンスは「機会」と訳される。これでは行間が広くなり、どのような「機会」であるかは不明瞭だ。
冒頭で述べたように、英語のコミュニケーションでは、発話者は行間を狭め、誰が聞いていても同じ様に理解できるように発言を行うため、水原氏は「チャンス」という言葉が持つ日本語の行間を理解した上で、英語らしく「何人かのランナーが出ていましたし、大きなヒットを打てばリードを奪えると分かっていた」といった具合に、「行間を狭めた」通訳を展開したのである。
実は水原氏の行間の調整は日本語から英語だけに適応されているだけではない。次はインタビュアーの英語を日本語の広い行間に直した例を見ていく。
(インタビュアーの質問)
最後の質問ですが、ショウヘイ、今夜は先発のパトリック・サンドバル(投手)にもちょっとした愛を注がなければなりません。彼はまたもやとても良い投球を見せましたね。ヤンキースの打線と対戦する彼を見るのはどれほど楽しかったですか?(水原氏の通訳:ChatGPTによる和訳)
まあ先発のサンディすごいいいピッチングしてましたけど、(サンディを)どういう風に見守ってましたか?インタビュアーはパトリック・サンドバル投手がこの日どのようなピッチング内容だったか、さらにはその投球内容は評価に値すると具体的に表現している。行間はとても狭い。
しかし水原氏がこの英語の質問を日本語にしたとき、要点はずらさずに包括的で行間が広い表現に通訳していることが分かる。太字でハイライトした部分がそうである。
また、青字部でも同じように、インタビュアーは「どれほど楽しかったですか?」と狭い行間で楽しみの程度を質問しているのに対し、日本語では「どのように見守っていたか?」という具合に、「行間が広い」質問に通訳されている。
このように見ると水原氏は日本語と英語の行間をそれぞれの行間とコミュニケーション作法に自然な表現となるように通訳していたことが分かる。しかし、このような流儀を考慮せず、通訳された言葉だけを見ていくと、水原氏の訳は確かに雑さを感じさせてしまうだろう。訳が適合していない印象が強くなるからだ。