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2024.05.02 15:45

三井物産は利益1兆円超え 商社パーソンに学ぶ地球規模の「稼ぎ方」

露原直人
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3つ目として、商社パーソンが持つ大きな力が「地球上のフットワーク」です。

1兆円規模の利益を叩きだす総合商社では、一部門で数十億円の案件を狙う必要があります。数億円の利益を生むレベルの案件では、「商社の間尺に合わない」と言われてしまいます。

しかし、数十億円規模の案件を、誰よりもいち早く発掘するとなると、オフィスのなかにいたり、デスクに座っていたりしても、見つかるわけがありません!(たぶん、ChatGPTでも見つけられません)。となると、日本中、いや世界中を飛び回り、血の情報を得るためにひたすら人に会いまくります。もちろん、ご想像の通り(?)毎晩会食という人もいます。

知り合いのお付き合い案件や持ち込まれた案件を精査するのではなく、本気で、地球上を自分の足で駆け巡り、最高の収益機会を求め続けるフットワーク。いまの日本で最も求められていることのような気がします。

昨年の春に、私の三菱商事時代の上司が定年退職をされ、ささやかなお祝いの会を開きました。少し夏休みでもとって、ゆっくりされるのかと思ったら、次に参画する会社の名刺を出され、海外企業とジョイント・ベンチャーを作る構想などを語っていました。「植野は、マーケティング領域に偏らず、もっと財務経理を勉強しなさい」とアドバイスも。

まさに、商社の大先輩の、スケール感ある商い精神、スーパーゼネラリスト、地球上のフットワークを再認識した次第です。

鉄壁のリスクマネジメント

稼ぐ商社パーソンの3つの力に加え、総合商社が持つ重要な機能についても、お伝えしたいと思います。

実は、圧倒的に稼ぎまくる裏には、損からいち早く「退く力」が駆動しているのです。商流の中で、さまざまな血の情報を得ながら、アグレッシブに投資機会を狙いに行く商社パーソンですが、ともすると、あれこれと投資をしてしまうのではないかと思われるでしょう。実際、総合商社が貿易取引モデルから事業投資モデルに転換して行った1990年代は、安直な投資によって、たくさん手痛い目にもあってきました。

ここから、各商社は、戦略コンサルも使いながら、米国流のポートフォリオ経営と、それを支えるリスクマネジメントを徹底研究して、投資機能の確立に努めました。そうしてできあがった、血の情報を活かした攻めの事業投資と双璧をなす強みが「鉄壁のリスクマネジメント」です。

総合商社以外でも事業投資を行う会社は増えてきましたが、投資リスク管理の話を聞いていると、総合商社とは30年分ぐらい(つまり総合商社の90年代)差があるように思います。

リスクマネジメントの印象的な例をあげましょう。私が三菱商事にいた時に驚いたのが「EXITルール」です。これは、信用格付けが下がったり、赤字が3年続くなどした場合、その事業からは撤退するという決まりです。

投資判断の稟議書には、将来その事業から撤退する場合の売却候補先や、規制法律の影響、人員や工場など資産の扱いについて記述を求められました。

新人だった私は、「これから投資を決めようと盛り上がっている時に、なぜ後ろ向きな、手仕舞いの仕方を書かなければならないんだ?」と訝しく思いましたが、いまでは「EXITルール」の重要性を実感しています。

過去から持っている事業を切り離せず、ズルズルと維持継続をしてしまう会社は少なくありません。それもそのはずで、「退き方」を決めてないから、判断できないのです。総合商社が血の情報からアグレッシブに投資機会を獲りに行ける裏では、上手く行かなかった時の「退き方」シナリオが駆動しているのです。

資源の乏しい島国の日本が、日本人ならではの知恵と汗で生み出した事業体である総合商社が、いま地球規模で兆円レベルの利益を稼ぎ出しています。日本からGAFA(M)を生み出すことは難しくても、次なるいくつもの総合商社を創り出すことは可能ではないでしょうか。いまこそ、日本企業、日本人は、総合商社、そして商社パーソンに学ぶときです!

文=植野大輔

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