ゲーム化で見落とされがちな負の側面
ストックホルム大学ビジネススクールのニック・バトラー准教授は、「仕事にゲーム化を導入するメリットは明らかだ。仕事は退屈だという感覚が薄れるからだ。とはいえ、ゲーム化のデザインがお粗末な場合は、ゲーム化された仕事が、ToDoリストに並んだ単なるタスクになってしまう可能性がある。ゲーム化は、従業員のやる気を促進するという目標を達成できず、従業員をコントロールする道具になる可能性があるとの批判もある」と
説明する。
バトラーとスヴェレ・スポールストラは、ビジネス倫理に関する学術誌『Journal of Business Ethics』で2024年1月に発表した
研究論文において、仕事におけるゲーム化に本質的につきまとう両義的な性質を論じている。
仕事のゲーム化で見落とされがちな側面には、以下のようなものがある。
・搾取と操作
報酬制度やスコアボードといったゲーム化のテクニックは、従業員を操作したり搾取したりすることを目的に設計することもできる。そうなれば、従業員のストレスや燃え尽きの増加、支配されているという感覚につながってしまう。
・プライバシーの懸念
ゲーム化ではたいてい、従業員の行動やパフォーマンスに関するデータが収集・分析される。これによって、
プライバシーの懸念が生じ、従業員が不信感を抱く可能性もある。
・内発的動機付けへの悪影響
外発的な報酬といったゲーム化要素を過度に利用すると、従業員の内発的動機付けや自律性が弱まり、働くことの楽しさや仕事への満足感が低下しかねない。
・予期せぬ結果
仕事にゲーム化を取り入れると、予期せぬ結果を招く場合がある。例えば、従業員間に不健全な競争心が芽生えたり、えこひいきの風潮が生まれたり、ステレオタイプや偏見が助長されたりする可能性がある。ゲーム化を導入した、米カリフォルニア州のディズニーランド・パークを
例に挙げよう。同パークでは、各従業員の生産性をランク付けしたスコアボードがリアルタイムで表示されるシステムを取り入れたが、これが意図せぬ結果を招いた。従業員の競争心に火がつき、協調的な職場文化が弱まってしまったのだ。
・真正性の喪失
仕事をゲーム化すると、仕事そのものが有意義であるという感情の真正性が低下するおそれがある。従業員が、「仕事そのものに価値がある」から取り組むのではなく、報酬やポイントを稼ぐことを重視するようになりかねない。
・倫理的なジレンマ
「たとえゲーム化の導入でエンゲージメントが高くなったとしても、低賃金や危険な労働環境といった職場の根本的課題が対応されないのであれば、倫理面での疑念が生じる」とバトラーは話す。ゲーム化を取り入れると、公平性や透明性、組織の目標と従業員のウェルビーイングの兼ね合いを巡って、倫理的なジレンマが生じる可能性がある。