浅井は「まさにその通りで、自分たちが目指すべきところはどこにあるのか、そのためにどれだけ投資が必要かを合意していく。そこは段階を踏んでいます」と語る。
この点について、共感しかないと生方は続ける。
「弊社も大きな会社ではないので給料だってそんなに出せません。特に研究開発費にかなりの額を投資していますから。それでも弊社には、一流といわれる大学を卒業した優秀なエンジニアが多数います。彼らだったら、一流企業で今の3倍の給料がもらえるんですよ。それなのになぜ?と聞くと、“パーパスに共感しているから”“風土が良かったから”“やりたいことに挑戦できて楽しそう”だと。
当然給料を上げたいわけですが、それは我々が考えればいいこと。彼らにとっては明日も会社に行きたい! 楽しい!と思える環境を作ることの方が重要だなと思っているんです」
スモール・ジャイアンツ流、生き残り戦略
最後に、新規事業に取り組もうとしている中小企業に向けて3人が語った言葉とは──。
「過去には大変な失敗もしております」と切り出したコーワの服部。これまでに先代のバブル期も含めてアメリカのゴルフ場、温泉やマリーナなど立ち上げたのは30社以上。3代目社長就任後は自ら事業の整理に乗り出した。「今はブラシ事業への原点回帰からのリスタート。だから慎重にならざるを得ないんです。しかも私自身が石橋を叩いて壊すぐらいの慎重派で。でも一歩を踏み出さないと何も変わらない」
ただし、無謀と挑戦は違うと服部は持論を展開する。
「私の場合の線引きは、数字だったり、誰もが認めるパテントを持っているかだったり。その線引きさえあれば、あとはどう楽しむか、です。趣味で格闘技をやっていますが、試合前のロッカールームにいる時の、あの恐怖と希望のせめぎ合いが一番楽しい。新規事業を立ち上げや起業されたばかりの方や、これから計画されている方にとっては、今が一番楽しめる時期なんじゃないかと。ぜひ次に向かって挑戦してほしいですね」
生方は、技術力を謳うのではなく、自社を「人の命を守るための集団」と打ち出す。
「そのほうが自分たちの可能性は広がり、働く人たちも楽しく働けると思うんです。お金のことは僕たちにまかせて、自分たちがおもしろいと思うことをやりたいと言える環境づくりが、この先、中小企業の生き残りに必要な戦略なのかなと思います」
「私は、2年後に社長を交代しようと思っています」と、突然宣言をした浅井。
12年間社長業に就いていた自分も含め、中小企業の問題点として、トップの交代が難しいことを挙げた。3~5年のスパンで社長が交代していけるような組織づくりが大事だと語る。
また、浅井は新規展開を考えている「農福連携」を挙げ、「障がいというのは、決して劣っているのではなく違っているだけ。誰もが完全じゃなくてもいいんです。自分の苦手なことは得意な人に任せる。組織においても、プロジェクトにおいても、この考えが浸透すれば、失敗しても寛容に受け止められる。組織が大きくなっても挑戦を続けるには、そういう空気を作ることが大事だと思います」と語る。
変化の大きな時代に、果敢に新規事業にチャレンジするスモール・ジャイアンツには、3社3様の戦い方があった。