人もいない、資金もない、何もない状況で、あったのは農地だけ。この農地を使ってできることを考えた先に行き着いたのがトマト栽培だった。
浅井は、自社を「アグロノミスト集団」として、研究開発とスマート農業に積極的に取り組み、独自の品種開発と栽培管理技術を駆使した、これまでになかった新しいオーダーメイド型のトマト生産を手がけて成功を収めている。
「この業界自体が構造的に硬直化しているんです。だからゼロイチで挑戦しようとする人は誰も出てこない。そんな危機的な状況の中で、時代と社会の変化に対応するためには我々がひたすらゼロイチをやるしかないと思ったんです」(浅井)
世の中にないもの、という点では、3つの世界トップシェア製品を上市している生方製作所。自分たちを単なるデバイスメーカーではなく、人々が安心安全に暮らせる社会を実現するために存在している“サイレントヒーロー”と定義づける。
「浅井さんと同じで、我々も創業当初はとにかく世の中にないもので、必要とされるものを作ろう!と借金をしながらやってきました。もともとがエンジニア集団から始まった企業ということもあり、この強い思いを持ち続けること自体が会社の風土であり強みになっているんです」と生方は分析する。
「だからなのか、お客様からも「こういうものを作ってほしい」と注文されます。直流遮断装置もその一つ。大手メーカーが何年取り組んでもできなかったもので、作れるわけないと言われていましたが、弊社は8年かけて完成させました。とにかく何が何でも作りたい! 絶対に作るんだ!という強い思いだけで取り組むのは、風土なんでしょうね。祖父が創業した時から、そこはまったく変わらず、若い世代にも受け継がれているんだと思います」
生方に続いて、服部がこう語る。
「何が何でもやってやろう!という強い思いは大事ですよね。「tanQest」が注目されるようになったからか、最近、青森県の(航空自衛隊)三沢基地から除雪用ブラシの開発依頼がありました。すでに使われていますが、依頼が来た時には、よしやるか! 俺たちにやれないわけがない!という空気感になるんです。できると言える根拠は何もないんですけどね(笑)」
尖った人材の集め方
トークセッション中盤に「どうすればそんな強い思いを持った人材が集まるのか?」と、藤吉が投げかける。「特に浅井農園さんは、第二創業。新しいものを作るための人材はどうやって集めたのですか?」浅井は「正直よく集まったと思うんですよ。ただ、どんな大きな会社も、スモール・ジャイアンツに選ばれるような会社も、初期のステージがあって、そこには挑戦することが純粋におもしろいと思える人たちが集まってくるんです。9時から17時まで同じ仕事をやっていたいという人が弊社に来たら、おそらく3日で絶望したでしょうけど(笑)」と語る。
この意見に、技術者集団からの創業だった生方も、新規ビジネスに果敢にチャレンジしてきた服部も大きく頷く。
ただし創業期を経て次のフェーズに移る過程でのハードルこそが、未来への投資だと浅井は語る。キャッシュフローの中から研究開発費への投資の割合をどう考えるかということだ。給料も上げたいし、労働環境も整えたい。未来への投資の比重が大きくなると、今働いている人たちはどうなるのかという壁に直面する。難しいのはそのバランスだ。