子どもの頃に両親と来日した後、妹、弟ができたものの母を失っているサーリャ(嵐莉菜)は、川口市在住の17歳。頑張り屋で仲良しの友人たちもおり、教員になりたいという夢を抱くごく普通の女子高生だが、クルド語と日本語のバイリンガルのため、周囲のクルド人と日本人との橋渡し役として細々した頼まれ事もこなしている。
在日クルド人同士の婚礼の音楽や華やかな衣装、床に座って食べるクルドの伝統的な料理など、クルド人たちは父マズルムを筆頭に民族の文化を大切にしている中、日本に溶け込んでいるサーリャがうっすら疎外感を覚えている様子が、淡々と描かれていく。
サーリャの妹アーリンは、メンタリティが完全に日本の少女であり、小学生の弟ロビンは学校で孤独を抱えている。彼らは日本語しか話せない。仲の良い一つの家族の間でも、世代と経験の違いによって、日本とクルドの”配分”はさまざまだ。日本人にはわかりにくいそうした事情を抱えた家族がドラマの中核に置かれ、在住クルド人たちのリアリティを伝えている。
初々しい恋と理不尽な運命
サーリャは大学進学の学費を貯めるため、父に内緒で新荒川大橋を渡った東京都北区のコンビニでバイトをしている。同じくバイトをしている同い年の崎山聡太(奥平大兼)が、仕事中さりげなく彼女に助け舟を出したことから、二人の間に淡い感情が芽生え始める。聡太とサーリャの最初はぎこちなくも初々しい会話、だんだんと距離の縮まっていく自然なリズムがとても良い。クルド人の婚礼でサーリャの手に付けられたクルドの赤い印、サーリャ自身は洗って隠そうとしているそれを、聡太は「俺、赤好きだし」と言う。
これはもう「サーリャが好きだ」という告白だろう。だからサーリャは、それまでクルド人に対する日本人の感情に忖度して自分は「ドイツ人」だと偽っていたのを、心を許せるとわかった聡太にカミングアウトする。聡太の受け止め方は、ウィットに富んで優しい。これらのシーンの後、戸外の二人が紙を並べてさまざまな色スプレーで遊び、雨が降ってきてそれらの色が混じり合う様は、いささかベタだが民族や人種を超えた人と人の自由な交流をイメージさせている。