近年、市民からは「治安が悪化している」との訴えが続き「マスコミは実態を報道していない」という批判もある中、クルド人へのヘイトスピーチも拡大しているようだ。さらに、そうした排外主義への抗議行動や告発、クルド難民への理解を呼びかける声も上がっている。クルド難民問題は、これからさらに出てくるであろう、在日外国人と日本人との共生をどう考えるか、という問題にもつながる。
クルド人とはどんな民族か、ざっとおさらいしておこう。
中世から近世にかけてオスマン帝国領内に居住していたクルド人は、第一次世界大戦後、フランスとドイツとロシアが引いた国境線により、トルコ・イラン・イラク・シリアにまたがる広範な地域に散らばることになり、以降、3000万人もの人口がありながら国家を持たない最大の民族となっている。
20世紀後半にはトルコやイラク内のクルド人の間で分離独立闘争が起こったが、中東をめぐる複雑な国際政治の中、トルコ政府からの迫害を逃れて欧州に流れるクルド難民が増大した。日本においては1990年代以降、工業系の中小企業が多く外国人労働者に寛容だった埼玉県の川口市や蕨市に、多くのクルド人が集まるようになった。現在は約2500人が、それらの地域に暮らすとされている。
各国でクルド人の難民認定が進んでいる中、日本政府は基本的にクルド人の難民申請を受け入れていない(帰国すれば迫害される恐れがあるとして当人が裁判を起こし、難民認定されたのが過去に一件のみ)。就学年齢の子どもがいたり日本人との婚姻などによって在留資格を得るクルド人もいる一方、資格がなければ就労が禁止され、保険証も持てず、移動も制限され、不法残留者として出入国管理施設に収容されるケースもある。資格を失ったまま一時的な「仮放免」状態のクルド人も少なくない。
川口市で近年多発するクルド人と市民との軋轢には、生活習慣や文化の違いもさることながら、以上のような日本におけるクルド難民の不安定な状況が反映されていると言えるだろう。
日本で生きるクルド難民を描いた作品
今回取り上げるのは、こうした在日クルド人の問題をクルド人少女の視点から描いた映画『マイスモールランド』(2022)。原作・脚本・監督を務めたのは、イギリス人の父と日本人の母を持つ川和田恵真だ。彼女自身が抱えてきたというアイデンティティの問題を、子ども時代から日本で育った設定のクルド人少女に投影すると共に、日本社会で生きるクルド難民の複雑な立場を浮かび上がらせている。ここには日本人に加害するクルド人は登場しない。その分、現実に起きている問題に対して甘いという批判はあるかもしれない。その一方、日本での生活が長く日本で自分の将来を切り開いていこうとしている若いクルド人にスポットを当てることで、対立関係だけに捉われない視野を提供している。