経済・社会

2024.05.08 13:30

今、紛争地に必要な「平和の特効薬」とは何か

ふと、映画『ビルマの竪琴』を思い浮かべた。私が見たのは1985年公開の作品だ。悲惨な戦争描写のなかで、流れ続ける音楽が観客の心を慰めてくれた。英国の友人、ジェイスンもこの映画に感動したひとりだ。「敗戦を知らず立てこもる日本の小部隊を英国の大軍が包囲するシーンがあるでしょう。日本軍は英軍の気をそらせるために『埴生の宿』を歌い始める。すると英軍側はその原曲である“Home,Sweet Home”で応える。やがて日英の唱和が密林に響きわたり、その夜、日本軍が投降するんです」。ジェイスンは涙が止まらなかったという。

ミャンマーの惨状は目を覆うばかりで、その要因は複雑だ。内政のみならず国際関係も錯綜している。日本も公式の援助を控えざるをえない。

国際紛争はミャンマーだけではない。ウクライナ、中東を始め同時多発の様相を呈している。戦乱の犠牲者がいない日はない昨今の有様である。

こんなときこそ、マリさんの言う平和の特効薬、音楽や芸術、芸能の役割に期待したい。無論、事柄がたやすい話ではなく、ロマンチックな思いなど押し潰してしまう圧力と厳しい現実があることは承知のうえだ。しかし、古今東西、戦火に傷んだ人心を芸術が救ったエピソードは数多くある。青くさい夢想と片付けず、あらゆる動物のなかで人間だけがもつであろうこの特効薬を使わない手はない。山本祐ノ介さんの志を今こそ生かせる道はないものだろうか。

マリさんが呟く。「ビルマの竪琴の映画は山本父子のミャンマーと平和への思いよね」。奇しくもこの映画の音楽監督は山本直純であった。


川村雄介◎一般社団法人 グローカル政策研究所 代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。東京大学工学部アドバイザリー・ボードを兼務。

文=川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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