欧州の状況は深刻だ。オランダの公共放送NOSによると、同国では4月に入ってからの2週間で、重症リスクの最も高い乳児50人を含む1800人の感染が確認された。
今年これまでの感染者数は5303人。うち乳児が276人で、その半数近くが入院し、4人が死亡した。また、国立公衆衛生環境研究所は今週、80歳以上の患者1人の死亡を報告した。
同研究所は、今年の感染者数は例年に比べて「非常に多い」と指摘する。昨年の百日咳患者は通年で2842人だった。
考えられる流行原因として、オランダ公衆衛生局は小児期のワクチン接種率の低下を挙げている。その上で、親が子どもに必要なワクチンを全て接種しない場合、感染リスクが高まると注意を促している。
米誌バロンズによると、チェコでも最近「百日咳患者が急増」し、急速に感染が拡大している。今週初めの保健当局発表によると、すでに3人が死亡した。
今年これまでに7888人の感染が確認されている。先週だけで新たに1494人が感染し、1週間の新規感染者数としては今年に入ってから最多。現在、少なくとも183人が入院している。
米ブルームバーグ通信によると、中国では今年1〜2月に百日咳の患者が3万2000人超に急増。前年は通年でわずか1400人だった。
百日咳は非常に感染力の強い呼吸器疾患で、唾液や粘液の付着、咳やくしゃみなどの飛沫で感染する。感染者に接触した人の最大90%が感染する恐れがある。
病原菌は百日咳菌と呼ばれる細菌で、気管支内部を覆う繊毛上皮に付着する。
英健康安全保障庁(UKHSA)は百日咳の典型症状について、感染初期は風邪に似ているが、1~2週間後に特有のけいれん性の咳発作が出ると説明している。連続する咳の後に息を吸う際、ヒューという音が出るのが特徴だ。激しい咳が数分間続いて止まらなくなり、嘔吐を伴うこともある。咳は夜間にひどくなる傾向がある。
生後3ヵ月未満の乳児は、ワクチンの予防効果が万全でないため、重篤な合併症を発症するリスクが最も高い。感染すると気管支に炎症を生じ、呼吸困難を引き起こす。最もよく見られる合併症は肺炎で、命にかかわることもある。
米国立感染症財団によると、1940年代にワクチンが導入されるまで米国では毎年9000人が百日咳で死亡していた。その後、予防接種を推進する大規模な取り組みにより、年間死者数は1976年までに1桁に減少した。
百日咳による世界の年間死亡者数はピーク時には数十万人に上った。感染症の専門誌に掲載された研究論文によると、直近では2002年にアフリカを中心に約29万4000人が死亡している。ワクチン接種が進んだことで死者数は2019年までに約12万人に激減した。
米国では今年に入ってからの患者数はまだ比較的少ないが、最近サンフランシスコで集団感染が発生した。現在流行している麻疹(はしか)と同様、百日咳の感染拡大を予防・抑制するカギは、親が子どもに予防接種をしっかり受けさせることだ。ワクチン接種をためらう人が多いほど、欧州や中国のように流行が再発する恐れが高まる。
米疾病対策センター(CDC)は、ジフテリア、破傷風、百日咳の予防に有効な3種混合ワクチンを生後2カ月から接種することを推奨している。
(Forbes.com 原文)