※ 「ときどき気にしている」「いつも気にしている」と答えた人の割合の合計
小川:今の日本においては一般的に、理解しにくいことへの耐性が低い傾向にあると思います。良くも悪くも情報をわかりやすくデザインすることに重点を置き、異なる意見があることを悪ととらえ、集団の調和を優先する傾向があります。イノベーションのためには、理解しにくいことや異なる意見に向き合い、自分の考えや意思を表現して、対話を重ねて互いに変化していくことが大事なのです。メディアアートを通じてそうした姿勢、マインドセットを学ぶことができます。
平岡:民族性の違いは、理由のひとつかもしれません。今後、日本の企業は海外市場の開拓や国際的なパートナーシップの構築がより重要になってくるなかで、イノベーションや研究開発のアプローチも自国とは異なる、多様な価値観の市場に向けて行っていくことが求められます。人種、性差、環境問題など、さまざまな視点からの深い企画や計画立案が非常に大切だと考えます。
「共同の子宮」で、性と家族のあり方を問い直す
小川氏との対話で、メディアアートが企業で働く個人の価値観をアップデートさせること。ひいてはそれが事業変革や技術革新を促す一因となり、イノベーションとして社会に還元される流れを垣間見ることができました。アートには、歴史を重んじながらも未来の兆しを見つけ、新たなストーリーを描いていく力があるのではないでしょうか。最後に、「アルスエレクトロニカ 2023」 で展示されていた、私がとても興味を惹かれた作品を紹介します。その名も「ORGAN OF RADICAL CARE」。多数の女性、トランスジェンダーの方々、そしてノンバイナリー(性自認が男女どちらにも属さない)の方々の月経血を使用して、「共同の人工子宮」を育成する取り組みです。
将来的には「男性」の細胞もこの人工子宮に組み込む計画があるそうで、出産という生命の創出行為を「女性の役割」という枠組みから解放し、私たちに家族の概念すら再考するように促しています。性別の流動性や多様性が徐々に認識されつつある今、このプロジェクトはそれらをさらに深めて拡張する役割を担い、私たちの文化や社会構造を根本から見つめ直すきっかけになると感じました。