有名セレクトショップのバイヤーがミラノとベルリンから2人、ラグジュアリーブランドのデザイナーがパリから1人、インダストリアルデザイナーがミラノから1人、そしてジャーナリストがそれぞれミラノ、ロンドン、デュッセルドルフから1人ずつの合計7人が5日間、日本のものづくりの源泉である地方の工房や工場を周り、固有の文化や風土に触れるというものでした。
仕事などで東京を訪れたことがある方は多かったのですが、広島や名古屋はほとんどの方が初めて。広島は戦争と関連して知られた名前でしたが、名古屋に関しては場所さえ知られていませんでした。僕自身も、全日程を朝から晩までアテンドしながら過ごさせてもらい、まだ知らなかった日本を多く再発見し、またこの方々の視点のフィルターを通して触れる旅先や日常のふとしたことに多くの発見がありました。
そのなかで感じたことは、情報量が少ない場所であればあるほど、よりものの解像度が上がるということです。
印象的だったのはベルリンのセレクトショップ「アンドレアス・ムルクディス」のオーナーが、尾道で裏通りの2階にあるお店で買い物をしたこと。たまたま見つけた裏通りの小さなセレクトショップで「こんな田舎の町の裏通りでお店をしているのはすごいな」と感動していました。物で溢れるパリや東京では見つけられないものが、静かな環境の中でふと目に止まる、そんな瞬間を隣で見ていました。
またこのツアーで多くの職人の方とお会いしたのですが、ものづくりの背景や職人の人となりに触れることでよりものの魅力が高まります。これは憧れを生むことを目的としたパリの華やかなファッションショーにはない、心の通ったお金の使い方です。有松では、若手の職人たちのストーリーや一つ一つのものに込められた想いに耳を傾けられていました。
すでにたくさんのものを持っている富裕層の方は消費するためにお金を使うのではなく、「このものづくりに貢献しよう」という、英語で「involve」と言うように表現されるようなその人や文化に関わる、関与するためにお金を使うことが増えているように感じます。