どうしたら国際的なブランドをつくることができるか。その分野の先駆者、有識者と共創したプロジェクトについて、これまでの道のりと「地域の価値の作り方」を前後編でお話しします。
1. 白紙からスタート
2. 手元の価値を再認識
3. チームの作り方
4. マスターマインドの作り方
5. 場所と時期の選び方
6. 情熱の伝え方
1. 白紙からスタート
名古屋市一帯には、江戸時代に尾張徳川家の庇護のもと、多くの伝統工芸が生まれました。今もその文脈を追っているところが多く、例えばトヨタも、元は織機製造業。江戸初期に始まった綿花の栽培が盛んだった中部地域で、織物をする産業が多くあったことがルーツになっています。
ただ、製造業は盛んでありながら国内だけのマーケットに依存している傾向もあり、特に伝統工芸はライフスタイルの変化とともに頭打ちになっているのが現状です。
僕は年に数回日本に帰るのですが、その際に各地を訪れて目にする手仕事に、時代をかけて研ぎ澄まされた美しさや健康なものづくりの凛とした力を感じていました。これは、世界の他地域では近代化の波の中で忘れ去られたもので、すでに失われてしまったものもある希少なものです。
こうした状況下で数年前、名古屋市の方々と勉強会をする機会を得て、僕自身が「suzusan」というブランドを通じて行ってきた地域産業の価値創出と海外でのマーケティング方法をお話しさせていただきました。
名古屋市としては、海外での展示や販路開拓支援などを過去に行った経験はゼロ。そんな中、市役所の小さな部署だった経済局伝統産業課が名乗りを上げて「Creation as DIALOGUE」を立ち上げ、全くの白紙からスタートしました。運営に関しては、地域プロデュースをする「ミテモ」という会社が受託して行う仕組みです。
僕は、2008年から白紙の状態で始めたsuzusanでの経験を公益的に使えたらと考えていたところで、名古屋市とミテモから声をかけをいただき、統括コーディネーターという立場でこのプロジェクトに参画することになりました。
プロジェクトでは、新ブランド創出・海外進出を目指す企業を募集し、仏壇の漆を専門する企業2社、七宝、黒紋付、有松鳴海絞りという、地域に根ざした職人気質の会社5社を選出しました。