今回のプロジェクトのゴールは「お披露目」ではなく「販路を築く」こと。利益が出て、経済的に職人にも還元され、いずれ後継者を生み出すきっかけになればという思いで、人選を考えました。
以前、イタリアのブランド「フォルナセッティ」のマーケティングを担当するイタリア人の友人とパリの合同展示会を一緒に周り、彼に日本ブースに対する感想を求めたところ、「It’s so beautiful, but for what?(とっても美しいと思うけれど、何に使うの?)」と返されたことがあります。そこには現地のマーケットに合った視点がなく、作り手に「どういう人がどんな場面で使うか」というイメージがないのではないか。それでは誰も買わないよ、ということでした。
こうした経験から、デザイナーに関しては「海外の生活を知っている人」、つまり販路先の地域に長年暮らしている人というフィルターをかけました。その中で、ミラノ在住で、「ボッテガヴェネタ」や「ディオールオム」で長年バッグのチーフデザイナーとして活動していた古川紗和子さんと、パリ在住で「ヴァンクリーフ&アーペル」や「グラフ」でハイジュエリーのチーフデザイナーを務めていた名和光道さんに依頼をしました。
ラグジュアリーマーケットをメインフィールドに、15年以上欧州に住む二人です。本プロジェクトは手仕事が軸なので、どうしても高価格帯のマーケットになりますが、「富裕層」と一言で言っても様々な趣味嗜好があります。また、欧州と言えどドイツ、イタリア、フランスで生活様式も様々。国を超えて普遍的な価値を作る意味でも、3カ国のメンバーでミーティングを重ね、隣国の異文化に触れることは、僕自身の気づきにもなりました。
その他、展示会の会場構成にはスイス・バーゼルにある建築事務所「ヘルツォーグ&デ・ムーロン」で建築デザイナーをしていた平林大輔さん、ロゴやウェブ、印刷物、撮影などのグラフィックデザインは岐阜県をベースにする「Gallery Crossing」の黒元美沙さん、黒元雅史さんに参画をしてもらい、日本を含め5カ国でzoomなどを駆使し、昼夜プロジェクトが進みました。
国によっては厳しいロックダウンになるなどコロナ禍で様々なハードルもありましたが、異なる視点を持つインターナショナルなチームでデジタルツールを使いながらコミュニケーションを密にとったことで、地理的なハードルを超えられました。また、職人からすると、移動が制限されている時期に遠く離れた地域の声を聞けることは貴重な機会。現地の生活を理解しながら、提案されたデザインに手仕事で応える、というやりとりが生まれていました。
連載:異なる文化と多様なものさし