(3)幼魚の間だけ擬態する「ナンヨウツバメウオ」
「擬態は幼魚たちの得意技なんですが、特に好きなのが『ナンヨウツバメウオ』。彼らは枯れ葉に擬態するんです。大きさも色も形も、完全に枯れ葉にしか見えない。しかも、立ち振舞も枯れ葉そのもので、泳がず、ただ浮いているだけ。すごいですよね? 彼らの祖先が枯れ葉を見て、『これになろう!』と思った瞬間があったわけです。そこから壮大な時間をかけてちょっとずつ進化し、枯れ葉に近づいていった」。
「枯葉に擬態するのは幼魚のときだけで、大人になるとスペード型のでっかい魚になります。これが、成魚にはない幼魚の面白さですね。
身を守る術はコレだと気づいて、そこから何世代にも連なって今の形に行き着いた。もしかしたら、まだ変化している最中かもしれない。そう考えるとドラマチックですよね〜。
種類によって生き様が多様で、すべてが正解。きっと人間もそう。どんな生き様も正しいんだって、彼らを見ていると考えさせられます」。
夢は「幼魚を文化にすること」
小さいものを愛でたり、育んだりする文化が日本の良さだと話す香里武さん。もっと幼魚の魅力に気づいてほしいと、静岡県に幼魚水族館を設立した。「2年前に静岡県に幼魚水族館を建て、そこで僕の夢がひとつ叶いました。次の目標は、幼魚を文化にすること。いまも『幼魚ってなに?』と知らない人も多いので、幼魚という言葉がちゃんと通じる世の中にしたいですね」。
「欲を言えば、一般の人でも推しの幼魚を3つくらい言える世界にしたい。評論家じゃなくても、好きな映画なら3本くらい挙げられるじゃないですか。それくらいまで幼魚の存在を高められたら、もう文化でしょう」。
漁港は親子におすすめ!「1日中遊べますよ」
最後に、せっかく日本にいるなら、親子でもっと漁港に足を運んでほしいと付け加えた。
「漁港がこんなにあるのは日本くらい。数でいうと2700以上あります。たも網とバケツさえあれば、幼魚採集は1日中楽しめますよ。
僕が開催している親子イベントでは、子供はもちろん、最終的にいちばん楽しむのはお父さんだったりします。ぜひ、漁港に行って、幼魚観察を楽しんでみてください!」。
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幼魚を家庭で飼育するには専用機器が必要になるため、ハードルは高い。だが、採集して写真に収めるだけならタダ。
行くたびに違う幼魚に出会えるため、飽きることもないのだそう。灯台下暗しだった「足元の海」に、ぜひ家族で出かけてみてはいかがだろうか。
(この記事はOCEANSより転載しています)