幼魚の格好いい生き様が表れる模様や色
では、具体的に幼魚の魅力とは何なのだろうか。その前にまず、幼魚と稚魚の違いを聞いてみた。
「実は、幼魚の定義は学術的にも曖昧なんです。正式には、卵から生まれてすぐの段階を『仔魚』、生殖能力を持つようになった魚を『成魚』と呼び、その間の長い期間は『稚魚』に分類されます。
でも、それだけでは説明が雑になるので、体が透明で、ただ水の中を漂う時期の魚を『稚魚』、自力で泳げるようになり、色や模様が出てくる段階の魚を『幼魚』と呼ぶのが僕の認識です」。
稚魚でも成魚でもなく、幼魚に魅了される理由がまさにここにあると話す香里武さん。
「幼魚たちの体にある模様や形には、すべてに意味があるんです。無意味なものがひとつもない。進化の過程で、どうやってこんな形になったのか、なんでこの色を選んだのか……。知れば知るほど、そこにはドラマがあります。
僕が幼魚に惚れているいちばんの理由はそれ。彼らの十種十色の生き様が格好いいからです」。
惚れるほどクールな「幼魚ベスト3」
たった数センチの生き物に“生き様”を見出した香里武さん。好きな幼魚ベスト3の紹介とともに、その魅力を教えてもらおう。
(1)命がけで毒クラゲと共存する「クラゲウオ」
「まずは、深海魚の赤ちゃんである『クラゲウオ』。その名の通り、クラゲにくっついて生活しています。餌になるプランクトンが多い海面付近は敵に見つかりやすいため、毒のあるクラゲの触手の間に入って隠れるんです。でも、一歩間違えれば自分自身がその毒にやられて死ぬリスクもあるんですよ。命がけで身を守る勇者なんです」。
「これは、人間模様に当てはめて考えても面白いんです。仕事ができる人って、人に頼ることが苦手な場合が多いじゃないですか。責任をひとりで抱えがちになる。クラゲウオを見てると、他者に頼るのも勇気なんだなぁって学びましたね」。
(2)おしゃれな模様は身を守る術「ミナミハコフグ」
「『ミナミハコフグ』は、黄色い体と黒い斑点が特徴のフグの赤ちゃん。まるで草間彌生ファッション(笑)。泳ぐサイコロみたいで可愛いですよね。漁港では、小さいと5ミリ、大きくても3〜4センチくらいの幼魚に出会うことができます。見た目通り箱型の硬い骨格を持っていて、敵から突かれてもびくともしません。でも、目だけは守れなかった。攻撃されたら致命傷です」。
「黄色い体に黒い斑点をまとった理由は、弱点となる目を守るため。黒い斑点のどれが目なのか判別がつかないよう、敵の気を散らしているんです。あえて目立つデザインを逆手に取って防御率を上げる。進化の過程でそうなった理由がちゃんとあるんですよ」。