ヘルスケア

2024.04.01 15:00

ADHDは「悪い子育てが原因」という誤りを覆す、脳科学の研究結果

木村拓哉

ADHDの脳では神経結合が増大

研究チームは、ADHDにおける皮質下-皮質ループ構造の関与について、ADHDの子どもの脳では、脳の深部構造と前頭葉との神経結合が増大していたと述べている。そのような脳の深部構造には、学習、運動、報酬の中枢である尾状核、被殻、側坐核などが含まれていた。

それらは、過剰な神経結合によって、大脳皮質の領域、特に、上側頭回、島皮質、下頭頂小葉、および下前頭回へつながっていた。これらは、注意や望ましくない行動の制御にかかわる脳の部位だ。

脳の運動、学習、および報酬中枢と、注意や行動を制御する部位とのあいだに、過剰な神経結合が存在することが、なぜ問題なのだろうか。結合は多いほど良いのでは、と思う人も多いだろう。電子機器などでは配線の強度が高い方が良いが、脳の場合は、つながりが適度でなければならない。多すぎると、脳の機能が非定型性を示すからだ。

実際、今回の研究では、注意力の問題を示すスコアの高い子どもは、スコアの低い子どもに比べて、皮質下-皮質ループ構造の一部の結合が増大していることが明らかになっている。

神経の刈り込み不足

発達中の脳で起こる重要なプロセスの一つは「刈り込み(pruning)」と呼ばれるもので、これは、脳がより成熟したプロセスを発達させるための基盤となる。脳は、発達するのに伴い、ニューロン間の結合を除去(刈り込み)していく。不要な結合を刈り込むことで、脳の効率性が高まるのだ。

ADHDの子どもの脳において、重要な領域間での結合の増大が見られたことは、それらの経路におけるシナプスの刈り込みが少ないことを示唆している。刈り込み不足によって脳のさまざまな領域間の結合が増大する現象は、別の神経発達障害である自閉スペクトラム症(ASD)でも観察されている。

ハイパーフォーカスと脳の神経結合の増大

軽度から重度まで幅はあるが、ADHDの子どもと一緒に暮らしたり、子育てをしたりすることは、多くの困難を伴うかもしれない。しかし、ADHDには「スーパーパワー」としばしば評されるような、利点になり得る側面もある。その一つが、一部のADHDの人などに見られる、「ハイパーフォーカス」という、関心のある物事に激しく集中する状態だ。ハイパーフォーカスは喜びをもたらし、科学、芸術、医学など、本人が興味を抱いた分野で素晴らしい成果を生み出すことにつながり得る。

「注意欠陥」という時代遅れの名前が付いているが、現在ではADHDは、注意が足りないのではなく、注意の制御が困難な状態であることがわかっている。脳の注意中枢と報酬中枢をつなぐ神経結合が増大しているのであれば、ADHDにおける注意制御の困難が、ハイパーフォーカスというスーパーパワーの形で現れる場合もあることはうなずける。

ADHDの今後の治療に向けて

今回の研究結果は、ADHDの症状に関与する脳の特定の領域と、領域間の相互作用についての理解を深めるものだ。しかし研究チームは、ADHDにおけるこのような脳の神経結合については、まだ解明すべき疑問が多いと指摘する。

例えば、ADHDにおける脳の神経結合は、時間とともに変化するのだろうか。脳の神経結合のパターンは、ADHDの遺伝や治療成果とどのように関係しているのだろうか。このような知見を効果的な治療に結びつけるには、さらに多くの研究が必要だが、その進展は非常に興味深い。

forbes.com 原文

翻訳=高橋朋子/ガリレオ

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